鉄の化け物
こんにちは。刻芦です。
なんとかギリギリ間に合いました。毎日投稿頑張ります!
「いやぁ。一日で嫁さん見つけて帰ってくるとは想像しなかった。梓は買い物から帰ったら驚くだろうな」
驚きから立ち直った夜鷹は三人を家へと迎え入れた。座卓の前に座る雪は緊張でガチガチに固まってしまっている。雪からすれば夜鷹は片穂野家の当主といっていい存在なのだ。もし庵との仲を認めてくれなければ、二人は夫婦になることは出来ない。戦国時代において当主の言葉はそれだけ重かった。
「初めまして夜鷹様。私は雪と申します。御佩刀家重臣の石動雷堂の娘でございます」
もっとも夜鷹からすれば孫が可愛い彼女を連れてきたという程度の感覚だった。重臣の娘というだけあって礼儀作法もしっかりしているし、夜鷹には反対する気はなかった。
「私は庵様をお慕いしております。確かにこんな目をした女ですが、何卒庵様との仲をお許し頂きたく伏してお願い申し上げます」
しかし雪としてはそうはいかない。自分を気味が悪い目を持った醜女だと認識している雪は、夜鷹に認めてもらおうと必死だった。正座をして深くお辞儀をして、なんとか許しを貰おうとしている。
「雪ちゃんでいいかな。頭を上げてくれ。儂は庵との仲をどうこう言うつもりはないよ。二人が好きあって結ばれるならそれでいいと思うておる」
というか庵にはもったいないくらいだとすら思っていた。テレビで見るアイドルなんかより、よっぽど整った顔立ちをしている。夜鷹は雪のことを孫の嫁として可愛がる気満々だった。
「良かった。本当に良かったです。私の目のせいで反対されたらどうしようと、ずっと心配していて」
「気にせんでもええ。なんせ、いやこれは梓の口から聞いた方が納得できるだろうな。噂をすればなんとやらだ」
玄関から聞こえるただいまの声に、雪にまた緊張が走った。男の難関が嫁の父親なら、女の難関は旦那の女親族だ。認めてもらえるように頑張ろうと雪は手にグッと力を入れる。
「庵ちゃん帰ってきたのね!あら、そちらのお嬢さん達は?」
帰ってきた梓に庵はもう一度同じ説明をする。それが終わり挨拶をしようと口を開いた雪を梓は優しく抱きしめた。
「え?梓様?」
「雪ちゃん。今まで辛かったでしょう。でももう大丈夫よ。ここには貴女を嫌う者なんて一人もいないわ」
どうして初対面の自分に優しくしてくれるのか。そう戸惑う雪の目に梓の髪の毛が映った。
「そう。私も向こうでは不吉だなんだと散々言われたわ。でも大丈夫よ。この時代に紫を不吉がる因習はないの。ほら、私に貴女の目を見せてみて?」
梓は雪の頬に手を添えて優しく顔を上げさせる。不安そうにする雪の目を覗き込むと、梓はにっこりと笑った。
「綺麗な目ね。まるで宝石みたい。庵ちゃんもいい子を選んだわ。二人の結婚、私は賛成よ」
梓にもお墨付きを貰った雪は、安心からぽろぽろと涙が溢れてきた。そんな雪を梓が抱きしめて頭を撫でる。母のいない雪にとって、こうして優しく撫でられたのは初めてだった。
「本当に可愛い子ね。家族が増えるのは大歓迎だわ」
すると梓の目が成り行きを見守っていた桜を捉えた。雪の侍女として控えながらも、認められて良かったと涙目となっている桜もいい子そうだと梓の目がきらりと光る。
「ねぇ。桜さん。もし良かったら貴女も庵ちゃんのお嫁さんにならない?」
「え!私ですか!?」
「そうよ。貴女も美人でいい子そうだし!私、ひ孫は沢山欲しいの。ただこの時代じゃ無理だって諦めてたけど、過去なら甲斐性のある男は側室が沢山いるのが普通よね?庵ちゃん!立見出世してお嫁さんを沢山貰いなさい!おばあちゃん孝行だと思って!」
「あぁ。そりゃいいな!庵。俺が死ぬ前に十人はひ孫を見せてくれ」
「私頑張ります!お爺様!お婆様!」
「わ、私が庵さんの嫁に……!」
うっとりとした表情の梓に、楽しそうに笑う夜鷹。五人は頑張ると意気込む雪に、慌てながら嫁、嫁と繰り返す桜。誰か収拾をつけてくれと庵は天を仰いだ。それから少し時間が経った頃。
「庵ちゃん。さっきはごめんね?お婆ちゃんはしゃぎすぎちゃった」
四人はなんとか落ち着きを取り戻してくれた。不幸中の幸いというべきか、雪と桜も緊張が解けたようでリラックスした表情をしている。
「庵は何のために戻ってきたんだ?」
「向こうで石動家に仕えることになったから、それを話しておこうと思ってたんだ。それに向こうで使えるものを買おうかなって。爺ちゃんも分かるでしょ?」
さすがに機械なんかを持ち込む気はないが、日用品くらいは大目に見てほしいと庵は思っている。自分の分以外にも雪の家族四人分は買おうとしていた。
「まぁ確かに現代に慣れてると向こうは不便なことが沢山あるしな。ただ着物姿はさすがに目立つだろう。二階の部屋に芽衣が来た時用の服があるから、それを借りたらどうだ?」
芽衣とは庵より三つ歳下の妹だ。確かに芽衣なら二人の年齢とそう変わらないし、ちょうどいいかもしれない。妹とはいえ流石に部屋に入るのは躊躇われるので梓に頼む。梓は雪と桜を連れて二階へと向かった。
「しかし庵が二人も嫁を連れてくるとはなぁ」
「桜さんはそんな相手じゃないよ」
「でも満更じゃなさそうだったじゃないか」
確かに梓から嫁にと言われた時に、断るでもなく照れたように笑みを浮かべていた。庵からしても桜は綺麗だと思うし、嫁になってくれたら嬉しいが、桜はどう思ってるのだろうか。
「着替え終わったわよ。見て庵ちゃん!可愛い子は何を着ても似合うのね!」
満面の笑みを浮かべる梓が部屋に戻ってきた。その後ろを恥ずかしそうな表情をした二人が着いてきている。芽衣の服はシンプルなものだ。それなのに庵は二人から目が離せないでいた。
雪は白に英字が書かれたTシャツに、淡い水色のミモレ丈スカートを履いている。長い髪をポニーテールにして、青いマリンキャップを被る姿はどう見ても現代の美少女だ。特徴的な紫色の瞳も、アクセントになっていて可愛らしい。
対照的に桜は黒スキニーパンツに白いニットを着た大人っぽいコーディネートだ。そして何より一部分が大きい。着物とは違う着心地に落ち着かないからか右手で左手首を握っていて、そのせいで強調された胸は存在感をより増している。切れ長な瞳は羞恥心で潤んで、とても色っぽかった。
「どうでしょうか庵様。こんなに足を出すなんて、はしたなくありませんか?」
「なんだが軽くて落ち着かないわ。それに着物よりも包まれてる感じがする」
「二人とも凄く綺麗だよ」
庵からの言葉に雪は嬉しそうに顔をパッと輝かせて、桜は今以上に顔を赤く染めた。ただこんなにも可愛かったら、これから向かう先でかなり目立つだろう。
「あんまり遅くなると雷堂様が心配するだろうし、早いところ用事を済ませようか」
庵はショッピングセンターに向かおうとしていた。というのも田舎にはそれくらいしか買い物を行える場所がないからだ。庵達は庭に置かれた軽自動車へと向かうことにする。
「なんですかこれ?わっ!鳴きましたよ!?生きてます!」
スマートキーの解錠音を鳴き声と勘違いして、驚いた雪が庵の腕に飛びついた。桜も不安そうに車を見つめている。
「さっき山を降りている時に話した、車っていう鉄の乗り物だよ。生き物じゃないし、勝手に動かないから安心して。ここから乗り込むんだ」
庵が後部座席のドアを開くと、二人はおっかなびっくり乗り込んだ。
「わっ!ふかふかしてます!なんだか気持ちいいですね!」
「庵さん。これ本当に大丈夫ですか?自ら鉄の化け物のお腹に入るなんて」
後部座席を桜は腹の中と表現した。言われてみればそう見えるかもしれないが、桜のような美人が不安そうにしているのが妙に面白い。
「大丈夫ですよ。それじゃあ出発します」
エンジンをかけて車が起動すると、二人は小さく悲鳴を上げた。特に桜など顔を青ざめさせて震えていた。
「唸ったわ!それに小刻みに動いているし!本当に大丈夫なのかしら!」
「桜落ち着いて!何かあっても庵様が助けてくれるから!」
まさか車に乗るだけでこんなに大騒ぎになるなんて。庵はこの先どうなるか楽しみでもあり、不安でもあった。
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