白那との出会い
昨日も本作は歴史カテゴリ日間ランキングの上位に来ていました!これも普段読んで頂いている読者様のおかげです。
ブックマークや評価をしていただきありがとうございます。これからも頑張っていこうと思います。
気づくと庵は見知らぬ場所にいた。和を詰め込んだような広い庭には、月を映した綺麗な池や朱色の大きな鳥居がある。その周りを四季折々の草花が彩っていて、向こうに赤く染まった紅葉があると思えば、目の前を桜の花びらが横切っていく。
季節外れだな。そんな場違いな感想を庵は抱く。桜の時期は過ぎているし、紅葉が色付くにはまだ早い。ただそんな日本の美を欲張ったような光景は素晴らしいの一言だった。
「綺麗でしょう?」
振り返ると桜の木の下に美しい少女がいた。白い髪に青い目という異国を感じさせる色合いなのに、日本風な顔立ちをしている。身につけた白い着物も相まって、この世のものではない存在のように見えた。
「綺麗だね」
その返答が望んだものじゃなかったのだろう。少女は頬を膨らませて庵の元へと歩いてくる。
「そこは君の方が綺麗だよって言わないと!」
「初対面の相手にそんなこと言えないよ」
「雪にはすぐにデレデレしてたくせに」
うっ、と庵は言葉に詰まらせた。衝撃的な出会いだったとはいえ、会ってすぐ告白をして、父である雷堂に結婚の許しを貰いにいった。そんなことを昨日の自分に言っても信じては貰えないだろう。
「それは確かに。そういえばなんで僕はここにいるの?」
「つーん」
どうやら少女を褒めるまで先には進んでくれないようだ。
「ごめんごめん。この美しい景色が霞んで見えるほど綺麗だよ、白那」
「気づいてたんだ?」
「あの時聞こえた声と一緒だしね。なにより髪が刀と同じ綺麗な白だからさ」
「そう。庵は綺麗だと思うんだ。まぁ当然だけど」
当然と言いながら髪を撫でる白那の頬は赤く染まっていた。そんな白那の感情に連動しているのか、真っ白な着物が裾から少しずつ桜色に染まっている。
「新しい持ち主に挨拶をしようと思って私が呼び出したの。庵が夢の中ならこうして呼ぶことができるから」
「そういうことか。よろしくね白那。これからお世話になります」
「よろしく庵。聞きたいことがあるんでしょ?」
「うん。白那を使った時に自分じゃないような感覚を覚えるんだ。なぜか最適解を知っていたみたいに自然に体が動く」
剣道は習っていた庵だが、武術は習ってこなかった。それなのに雷堂との戦いでは回し蹴りなど自分の知らない動きをしている。
「私の力は現在と過去を繋げる力。それは過去に生きた者の魂を繋ぐこともできるの。繋げられるのは協力してくれる魂だけだけどね。それを庵は無意識に使っていた。雷堂と戦った時は武神と呼ばれた男の魂が繋がっていたわ」
「白那を通して色んな人の力を使えるってこと?それってとんでもない力だね」
練習もせずにいきなり達人になれるなんてズルいにも程がある。
「それでも制約はあるのよ。一日に繋がれる魂は一つだけだったり、願いを叶えなきゃいけなかったり。武神の魂の願いは強者との戦いだったから、すぐに繋がれたけど」
それに、と白那は付け加えた。
「死してなお魂となってまでここにいる彼らは、常に戦いを求めてるわ。その執念に飲み込まれたら死ぬまで戦う修羅となってしまう。庵も覚えがあるでしょ?」
白那の言葉に目の前が真っ赤になったことを思い出した。あの時白那が抑えてくれなければ死ぬまで戦うことになっていたのかと庵は身震いする。
「でも白那が止めてくれたよね?」
「あれは武神が優しかったから上手くいっただけよ。普通の魂なら庵の体を乗っ取って死ぬまで戦うでしょうね。そうそう。武神からの言葉を伝えるわ。力に溺れず精進すべし。ですって」
「そうなんだ。武神には僕が感謝してたことを伝えてほしいな」
「それは自分で伝えなさい。今度会えるようにしておくから。さぁ。そろそろ目覚めの時間よ」
白那の姿が透明になっていく。引き戻されるように目を開けると、景色は屋敷に変わっていた。
「庵様、起きてらっしゃいますか?」
部屋の外から雪の声が聞こえる。どうやら庵のことを起こしに来てくれたようだ。返事をすると雪が襖を開いて入ってきた。
「おはようございます庵様。もうすぐ朝食ですのでお支度をお願いします」
「おはよう雪。教えてくれてありがとう」
「はいっ。それでは後ほどお会いしましょう」
部屋を出た雪は軽快な足取りで廊下を歩く。密かに想像していた、慕っている殿方を起こすという夢が叶って雪はご機嫌だ。
「庵様。寝起き姿も素敵でした」
少し寝癖のついた髪で優しい笑顔を見せてくれた庵を思い出して、雪は小さく笑みをこぼす。早くその顔が隣で見れたらいいな。そんな事を考えながら雪は食事の準備を手伝いに向かった。
「おはようございます」
「おはよう庵。昨日はよく眠れたか?」
居間へと足を運ぶと既に雷堂と雪、そして桜が待っている。挨拶をして用意された膳の前に座る庵だが、目の前の膳が空いていることに気づいた。
「お陰様でぐっすりと眠らせていただきました。風貴様はどうされたんですか?」
「あぁ。風貴は朝に弱くてな。ほれ。噂をすれば寝坊助がやってきおった」
居間へと遅れてやってきたのは眠そうに目を擦る風貴だった。昨日のしっかりした姿と違い、ボサボサの頭にあくびをする風貴は同一人物とは思えない。
「おはようございます。父上」
「遅いぞ風貴。お前はいつも寝坊をしおって」
「あはは。すいません。昨日は少し寒くて中々寝付けませんでした。義弟は眠れたかい?未来とは勝手が違って中々眠れなかったんじゃないかな?」
「いえ。どうやら疲れていたみたいで気付いたら寝ていました」
おそらく風貴は低血圧なんだろう。しかもあんなに固い寝床では満足に寝ることもできない。その結果朝に弱くなっているんだと庵は考えた。
「庵は今日どうするのだ?」
「一度僕の住む時代に戻ろうと思います。祖父母に話したいことが山ほど出来ましたから」
「それなら雪と桜を連れて行ってはくれないか?」
「二人をですか?まだ人を連れて裂け目へと入ったことがないので、もしかすると危険があるかもしれません」
というよりまだ一度も戻ったことがないので、本当に現代へと戻れるか分からない。そんな危険なことに二人を巻き込むのは庵は反対だった。
「だそうだが二人はどうしたい?」
「ご迷惑でないなら庵様の住む時代を見てみたいです!」
「万が一があれば私が姫様を守ります」
ただそんな庵の懸念を他所に二人は着いてくる気満々のようだ。
「そう言っているから連れて行ってはくれまいか?何かあっても庵に責を課さないと石動の名に誓おう」
「本当に危険かもしれませんよ」
「大丈夫です!」
そこまで決意が固いならと庵は二人が着いてくることを了承した。三人は支度を済ませると庭へと向かう。そこに雷堂と風貴が見送りに来た。
「庵から聞くに未来は平和だと思うが十分に気をつけて行くのだぞ。特に雪よ。石動の姫として恥ずかしくない行動を心得よ。桜。雪のことを頼んだ」
「はい。行って参ります」
「畏まりました」
「義弟も気をつけてね。とはいっても自分の時代に戻るだけだから、そこまで心配事はないのかな」
「そうですね。無事に戻れたらの話ですが、そこは白那を信じるしかありません」
挨拶を済ませて庵は白那を振って裂け目を作り出す。そこにまず庵が入って二人が後に続いた。そして裂け目が閉じた庭で雷堂は空を見上げる。
「良かったのですか?二人を行かせて」
「もし庵が戻らなければ雪は必ず心を壊す。庵がそんな男でないと思うが、物事に絶対はない。それならば雪も連れて行かせた方が良かろう。逆に桜は雪が戻らねば心を壊すかもしれぬから着いて行かせた。それに庵を憎からず思っているようだしな」
男二人ではこの屋敷は広すぎる。だから三人で無事に帰ってこい。そう雷堂は空に願った。
「ここが庵様の住んでいる場所ですか?あんまり私たちの時代と変わらないような」
辺りを見渡すと見覚えのある真っ二つの岩がある。どうやらここは戦国時代に向かった時にいた裏山のようだ。
「ここは山の中だからね。僕もまだそこまで雪達の時代を見れてないけど、町へと向かえば人の数は段違いに多いと思うよ。それに建物も全然違うし、車っていう鉄の乗り物が走ってる。きっと凄く驚くと思う」
庵が戦国時代との違いを二人に語っていると、すぐに祖父の家へと着いた。一日しか過ぎてないのに随分と懐かしく感じる。門を潜ると庭先で竹刀を振る夜鷹の姿があった。
「爺ちゃんただいま」
「戻ったか庵。ってその娘さん方は?」
「向こうでお世話になった雪さんと桜さんだよ。それで爺ちゃん。僕は雪さんと結婚しようと思ってるんだ」
戦国時代に送り出した孫が、一日後経ったら結婚相手を連れて戻ってくる。まさかの出来事に夜鷹は開いた口が塞がらなかった。
この作品を投稿してから今日で一週間となります。読んでくださる皆様、本当にありがとうございます!




