76 1年後
開戦から1年が経った、4月も終わりかけの今日。王さまから呼び出された。
ここ1年は、国内の憂いの芽を摘んで回っていた。まぁ、重要貴族とか結構死んじゃったけど、王さまの言葉を借りれば『人が1人いなくても、国は回る』だね。
1人どころじゃないけど、まぁ大丈夫でしょ。今のところ、国は綻びを見せていない。願うとすれば、アルベルト王子が王さまの能力を受け継いでいること。
王さまが死んだら、この国は終わるね。きっと。
「戦地に行ってくれ。最前線に」
「……さすがにそれは、バカなの? 王さま。狂った?」
「任務は敵将校の殺害」
ダメだ、どうしても行かせる気だ。リィを見ると、話を進めて構わないということだったから、口を開く。
「最前線ってボガトでしょ? あそこ、島だよね」
「ああ、そうだ。ミサイルなどは撃っても意味がないから、まぁ肉弾戦がメインだな」
迎撃用ミサイルは99.9999……パーセント正確に撃ち落とす。向こうもだし、こっちのミサイルも。つまり、撃っても意味ない。
「……殺す気か。で、戦況は?」
最悪、逃げる。王さまだって自分の命と引き換えにはできない。国が潰れるから、そんなことはしない。
「膠着状態だが、もうしばらくでこちらが不利になりそうだ。新しい将校が配属されて、それ以来、こちらの攻撃が通りづらくなっている」
「へぇ。……この任務、今までとは比べ物にならない危険度だね」
「できないか?」
にやりと笑う王さまの顔は、相当苛立つ顔をしている。でも、意味ないよ?
「煽っても無駄。できないことに挑んで死ぬ? そんな愚かなことしないよ」
「……では、貴族の養子たちを殺そうか?」
「あんた、なに言ってんのよ!」
「ちょっと黙ってて、リサ。話してるの、私」
「っ! ……ごめん」
なんで邪魔するの? いつも話すのは私かリィなのに。それに、こんな簡単な煽りに反応しちゃって。
「殺せるなら、そうしなよ。困るのは養子を受けた貴族たちで、そして将来の帝国だから。それでいいなら、どうぞ? もう彼らの家族は受け入れてくれた貴族家、私たちじゃない」
忘れられるなら、忘れた方がいい。もちろんスラムでの生活は役立つこともあるだろう。でも、普通でいい。
ケヴィン以外に、スラムの記憶と能力を切り離せるやつはいない。それだけは分かる。ケヴィンはスラム仕込みの牙だけを研ぎ澄まして、中身と見た目は完全に貴族になれる。
「情はないのか、お前に」
「情は邪魔だよ、王さま」
「養子の代わりはいくらでもいるぞ」
「養子が一気に全員死亡? 外聞悪いね。貴族に恨まれたら、強制的に退位もあるね」
「事件程度、揉み消せる」
「噂は揉み消せない。貴族内での足の引っ張り合いが起こる」
「私は能力によってのみ上へ引き上げる」
「王さまがそうでも、次の国王がそうするとは限らない」
「する。そう教えればいい」
「子どもを親の思考に染めるのは、その能力を封じること。そして、子どもは反発する」
しばらくこんな静かな言い合いが続いた。
「拒否権が、お前たちにあるか? 国の果てまで逃げて、そしてどうする」
「私たちを追いかけてる暇なんて、あるの?」
「もういいだろう、2人とも。そこまでにしろ」
リィの声が割り込んで、言い合いが止まる。
「いい、受けてやる。ただし、今後はチェスを解散する。二度と任務を回すな」
「ふん。いいだろう。……ああそうだ、この任務のために、軍隊に入ってもらうぞ」
「期間は? まさか、一生とか言わねぇよな」
「その通り、一生だ。軍はいい。実力主義にもしているし、飢えることはない。命の危機も、お前たちなら切り抜けられるだろう」
リィが鼻で笑った。ああまったく、私も同感だね。
「そんなわけあるか。俺たちは少数人数で殺るから強い。軍で俺たちがやっていけるとでも?」
「やっていけるさ。いいから、任務をこなせ。もし、将校を殺せたら自由にしてやろう。それができる者を殺そうとしても、返り討ちにされるだけだろうしな」
……そんなに、強いのか。自由に、ねぇ。どうでもいいな。リィがいれば、どうでもいい。




