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ただ純粋な、  作者: 横山裕奈
チェス編 第四章
78/262

76 1年後

 開戦から1年が経った、4月も終わりかけの今日。王さまから呼び出された。

 ここ1年は、国内の憂いの芽を摘んで回っていた。まぁ、重要貴族とか結構死んじゃったけど、王さまの言葉を借りれば『人が1人いなくても、国は回る』だね。

 1人どころじゃないけど、まぁ大丈夫でしょ。今のところ、国は綻びを見せていない。願うとすれば、アルベルト王子が王さまの能力を受け継いでいること。

 王さまが死んだら、この国は終わるね。きっと。


「戦地に行ってくれ。最前線に」

「……さすがにそれは、バカなの? 王さま。狂った?」

「任務は敵将校の殺害」

 ダメだ、どうしても行かせる気だ。リィを見ると、話を進めて構わないということだったから、口を開く。


「最前線ってボガトでしょ? あそこ、島だよね」

「ああ、そうだ。ミサイルなどは撃っても意味がないから、まぁ肉弾戦がメインだな」

 迎撃用ミサイルは99.9999……パーセント正確に撃ち落とす。向こうもだし、こっちのミサイルも。つまり、撃っても意味ない。

「……殺す気か。で、戦況は?」

 最悪、逃げる。王さまだって自分の命と引き換えにはできない。国が潰れるから、そんなことはしない。


「膠着状態だが、もうしばらくでこちらが不利になりそうだ。新しい将校が配属されて、それ以来、こちらの攻撃が通りづらくなっている」

「へぇ。……この任務、今までとは比べ物にならない危険度だね」

「できないか?」

 にやりと笑う王さまの顔は、相当苛立つ顔をしている。でも、意味ないよ?

「煽っても無駄。できないことに挑んで死ぬ? そんな愚かなことしないよ」


「……では、貴族の養子たちを殺そうか?」

「あんた、なに言ってんのよ!」

「ちょっと黙ってて、リサ。話してるの、私」

「っ! ……ごめん」

 なんで邪魔するの? いつも話すのは私かリィなのに。それに、こんな簡単な煽りに反応しちゃって。


「殺せるなら、そうしなよ。困るのは養子を受けた貴族たちで、そして将来の帝国だから。それでいいなら、どうぞ? もう彼らの家族は受け入れてくれた貴族家、私たちじゃない」

 忘れられるなら、忘れた方がいい。もちろんスラムでの生活は役立つこともあるだろう。でも、普通でいい。

 ケヴィン以外に、スラムの記憶と能力を切り離せるやつはいない。それだけは分かる。ケヴィンはスラム仕込みの牙だけを研ぎ澄まして、中身と見た目は完全に貴族になれる。


「情はないのか、お前に」

「情は邪魔だよ、王さま」

「養子の代わりはいくらでもいるぞ」

「養子が一気に全員死亡? 外聞悪いね。貴族に恨まれたら、強制的に退位もあるね」

「事件程度、揉み消せる」

「噂は揉み消せない。貴族内での足の引っ張り合いが起こる」

「私は能力によってのみ上へ引き上げる」

「王さまがそうでも、次の国王がそうするとは限らない」

「する。そう教えればいい」

「子どもを親の思考に染めるのは、その能力を封じること。そして、子どもは反発する」


 しばらくこんな静かな言い合いが続いた。

「拒否権が、お前たちにあるか? 国の果てまで逃げて、そしてどうする」

「私たちを追いかけてる暇なんて、あるの?」

「もういいだろう、2人とも。そこまでにしろ」

 リィの声が割り込んで、言い合いが止まる。


「いい、受けてやる。ただし、今後はチェスを解散する。二度と任務を回すな」

「ふん。いいだろう。……ああそうだ、この任務のために、軍隊に入ってもらうぞ」

「期間は? まさか、一生とか言わねぇよな」

「その通り、一生だ。軍はいい。実力主義にもしているし、飢えることはない。命の危機も、お前たちなら切り抜けられるだろう」

 リィが鼻で笑った。ああまったく、私も同感だね。


「そんなわけあるか。俺たちは少数人数で殺るから強い。軍で俺たちがやっていけるとでも?」

「やっていけるさ。いいから、任務をこなせ。もし、将校を殺せたら自由にしてやろう。それができる者を殺そうとしても、返り討ちにされるだけだろうしな」

 ……そんなに、強いのか。自由に、ねぇ。どうでもいいな。リィがいれば、どうでもいい。

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