進撃の坊主
「公転軌道上に巨大隕石が現れました!」
「直撃確率99.8%!」
「なんてこった……。衝突地点は!?」
「太平洋の真ん中です!」
「なんだ、なら大丈夫だな」
「大丈夫って……どうしてですか?」
「あそこには、天才がいるからだ」
★
頂天学校一年ピクニックでは、グループごとに違う場所から、同じ山の頂上を目指す。
今回登るのは、島の奥にある山、歩児山。標高二千メートル弱、富士山の半分ほどの標高の山だ。
最初に頂上に着いたチームには、先生からささやかなご褒美があるらしいが、ただの一般人である俺を連れたこのチームは、一位など目指さずゆっくり自分のペースで――
「我のチームがトップでないなどありえん。目指すのは一位だ」
「俺の一人語り聞いてた?」
「宮廷魔法使い、案を出せ」
「違うっす!」
宮廷魔法使いであることは否定しながらも、マジッカは山を最速で踏破する案を考え始めた。
「飛んじゃだめって先生言ってたし、足を速くする方向で――」
「飛ばなければいいんじゃろう? 任せておれ」
帽糸は両手を仰向けにし、水球を作り出して、自ら水に包まれた。
彼女を包んだ水球は、少しずつ大きくなっていき、それと共に中に巨大な人影が現れた。
深青の、おどろおどろしい巨人。地上に出た、海坊主。
『こ れ で 走 れ ば 頂 上 な ん て 一 瞬 じ ゃ よ』
「良い案だ、物の怪よ。それで行こう」
『み ん な 、 乗 る の じ ゃ』
巨人になった帽糸が差し出した手に乗って、俺たちは予想だにしない形で出発した。
体長――正確には分からないが、百メートルくらい、一歩だけで五十メートルは進む。
「ピクニックか、これが?」
「スーパーカーのようなものだ。王にはこれくらいあって当然である」
「当然っすかねえ?」
障害物をほぼ気にせず、巨体を駆使して超スピードで山を駆けあがっていく。
「……なんかちょっと気分悪くなってきたんだけど」
「高山病であろう。我慢しろ」
「ボクが対処するっす」
「どうやって?」
「風魔法で気圧操作っす。rmaoenaooawmeoanwwidn」
謎の呪文を唱えたかと思うと、空気が動く感覚があり、高山病がかなり楽になった。
やっぱり、妖怪も魔法もあるんですね。
「これでボクらの勝利確定っすね!」
「あ、フラグ建った」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
下から声がして、見下ろしてみると、リッキーが凄まじいスピードで障害物を蹴散らしながら山を駆け上がっていた。
その背中にはグループメンバーが乗っており、俺達と同じ戦略であることが窺える。
前に追われた時はあんなに速くなかったのだが――校舎内ということで、全力が出せてなかったのか。
高山病は……医浪がグループにいるから、アイツが治しているのだろう。
「行けリッキー! 優勝賞金はウチらのもんや!」
「抜かれたぞ。もっとスピードは出せんのか」
『こ れ 以 上 は 無 理 じ ゃ』
「速度上昇の魔法はあるっすけど、巨体に対しては効果が薄いっすよ」
「頂上が見えてきたぞ!」
山の頂上には先生が待機しており、あの人(?)にタッチすることでゴール判定となる。
残り三百メートルで、リッキーグループ以外に近くにチームはいない。一対一のラストスパートだ。
「といっても、このままだと速度負けするぞ!」
「……物の怪よ、もっと大きくなれんのか?」
『な れ る が 、 一 番 速 い の が こ の 大 き さ じ ゃ』
「構わん。多少減速してもよい、大きくなれ」
『了 解 な の じ ゃ』
走りながら、深青の巨人がさらに巨大化していく。
ただ、事前に言っていた通り、大きくなるからといって速くなるわけではなく、段々と遅くなっていった。
「この大きさでいい。魔法使い、我を頑丈にしろ」
「は、はいっす。フォースガード」
ガンガンと手を鳴らして硬くなった身体を試し、よしと呟いた王は、さらなる指示を出した。
「物の怪、我を投げろ」
『そ う い う こ と か。じ ゃ が 、 ピ ン ポ イ ン ト に 投 げ れ る と は 限 ら ん よ』
「構わん、やれ」
俺達を乗せた左手から、右手で王を取り上げ、振りかぶる。
「王さん、魔法が使えるボクがやった方がいいんじゃないっすか?」
「なに、我がゴールテープを切りたいだけよ」
『い く の じ ゃ』
巨人はダーツを投げるように、先生を狙ってコンパクトに王を投げた。
凄まじいスピードで空中に投げ出される中、ロングスカートで風の流れを操ることで軌道を調整し、先生の元に突っ込む。
そのセンス、即興力には目を見張るものがあった。
「ヴオオオ!」
「勝つのは、我だ!」
リッキーが先生に触れる寸前、頭から先生の胸に王が突っ込んだ。
衝撃で、先生たちは数メートル後方にぶっ飛ぶ。
ちょっと強引だったけれど、一番最初に触れたのは俺達だ。こうして、レースの勝者は俺達のグループになった。
「そんなわけないでしょう。審判妨害で失格です」
「ですよねー」
しこたま怒られて、全員が登頂するまで『反省しています』の看板を持って立っていることになった。
「ルールを全て開示しない、悪しきゲームであった」
「書く必要も無いルールだからなのでは?」
「優勝商品欲しかったっすね」
「まあ、仕方ないのじゃ」
ちなみに、俺達が取りそこなった優勝賞品は、後で作るカレーライスに入れられる、リンゴやハチミツなどの隠し味に使える食材だった。
料理を心得る者として、かなり欲しかった。
「賞金は!? 賞金はどこいったんや!?」
「賞金があるなんて言っていませんよ」
「そんなー!」




