王と市民と魔法と妖怪
ある日の朝礼、先生が急にくじ引きの箱を出した。
「レクリエーションを兼ねて、山に遠足に行きます」
ということで、島の山に一泊二日のキャンプに行くことになった。
生徒二十人を、四人一組の五グループに分ける。
「普段と違う人と触れあうため、グループはくじ引きで決めます」
「くじか……」
「大丈夫でござるか、主殿。拙者と離れることになるでござるが」
「面子次第だな。このクラスの三大問題児と同じじゃなければどうにかなる」
「大丈夫ですか、誠一さん」
「お前の方が心配だよ、三大問題児の一人。同じグループのヤツ、一文無しになるんじゃないか」
「問題ありません。遠足に持っていく物なんて、無くなってもいいものだけですから」
「それは問題なんだよ」
「次の方、どうぞ」
雑談しているうちに、俺がクジを引く番になった。
実際、三首と同じグループなら安心できるのだが――。
「では、クジに書かれた番号ごとに分かれて下さい」
「よろしく」
「よろしくお願いしますっす」
「よろしくなのじゃ」
「よろしくされてやろう」
同じグループになったのは、あまり交流がない三人だった。
問題児ではないが、クセが強い。
「えーと、改めて自己紹介からしようか」
「それには同意する。だが、仕切るのは我だ」
同じグループになった金髪女子は、椅子の上に立って、高らかに自己紹介を始めた。
「我は王玉主。皇帝学校から来た、いずれ世界を統べる皇帝よ!」
「「「お~」」」
その自信満々な物言いに、俺達下民は思わず拍手をした。
この方はある大国の皇女で、様々な国の王族が集う皇帝の学校で飛びぬけた成績を叩き出してここに来た、エリート中のエリートらしい。
そのうち、粗相をしたヤツが打ち首にされると言われている。
容姿は、俺と同じくらいの身長に、かなり長い髪を後頭部で結び、瞳は宇宙のような深みを持った、分かりやすい美少女である。
身に着ける制服は魔改造されており、ロングスカートはいいとして、シャツの袖がバカみたいにデカくなっている。。
気になる人は挿絵を見に行ってくれ。
「次、そこの魔法使い」
「分かったっす」
俺の隣で拍手していた男子が、その左手に握った杖を胸の前に持ち、自己紹介を始めた。
「ボクはスペラ・マジッカ。魔法学園から来た、魔法使いっす」
「……魔法って、あるの?」
「あるっすよ。見てて下さい、ファイアーボール!」
マジッカは、自分の眼前に火の玉を作り出した。
「待て待て待て待て!」
「冗談です」
苦笑して、マジッカは火の玉を消した。
この学校に来てから、様々な超常現象を見てきたので、逆に何かの仕掛けがあるのではないかと勘ぐってしまうが、とりあえずマジッカは魔法のような現象を起こせるらしい。
ちなみに容姿は、帽子を被った美男子。
杖をついているため、か弱い印象を受けるが、それは魔法用であり、よく見ると結構ガタイがいい。
「次、そこの大女」
「はい」
次に指名されたのは、俺の隣にいる大女。
この人、俺よりもずっと大きい。百九十はある。顔も大人っぽく、正直割と刺さってる。
そんな女性は、ゆっくりと話し始めた。
「わしは帽糸海子。妖怪学校から来た、妖怪じゃ」
「妖怪って、何のだ?」
「さて、何でしょう」
「……フェアリーっすか?」
「日本の妖怪じゃよ」
「定番に、雪女」
「違うが、そういった方向性じゃな」
「海坊主。磯の匂いがするぞ」
「正解じゃ……わし、臭いか?」
帽糸さんは、不安そうに腕に絡ませた髪の匂いをかいでいた。
何というか、喋り方としぐさが年寄り過ぎるというか――。
「あの、何歳なんっすっか?」
「女性に年齢聞くものではないぞ」
「構わんよ。といっても、千を越えたあたりで数えるのをやめたがな」
「平安時代から生きてるの!?」
「人間換算じゃと、去年で十五だったのじゃよ」
……天使も魔法使いもいるなら、妖怪もいるかぁ。
中身はストライクゾーンから離れててよかった。
「では最後、そこの者」
王に促されて、俺はあまりやりたくはない自己紹介を始めた。
「佐藤誠一。普通の学校からきた、普通の人間だ。まあ、よろしく」
「つまらん、やりなおせ」
「自己紹介にやりなおしなんてあるんですか?」
「そうだな……歌でも歌ってみろ」
「何その無茶ぶり!?」
「はいはいはいはい、はいはいはいはい」
王が四拍子を口ずさみ、マジッカが困り顔で、帽糸が穏やかな顔でそれに乗った。
他のグループからの目が集まっても、王は止める気が一切なく――やるしかなかった。
「ラーッラ゛ー!」
俺は、流行りの歌を精一杯歌った。頑張った。
多分上手くいってたけど、一番を歌い切ったところで止められた。
「聞くに堪えん、やめろ」
「酷い! 酷い!」
「佐藤さん……今度カラオケでも行きましょう」
「それはどういう意味なんだ……」
久々にガチ泣きしてたら、マジッカが慰めてくれた。やさしい。
その様子を見て、足を組んで座っていた王は、カカカと高笑いした。
「聞くに堪えない歌だったが、余興としては面白かったぞ。よい、お主らを我の臣下として認めてやろう」
「部下に無茶ぶりする上司なんていらない」
「ボクもちょっと。魔法使いは自由であるべきなので」
「年下につかえるのはのう」
「……まあよい。私に従っていれば、いずれ自ら臣下に申し出るであろう」
「ないです」
こうして、不安ながらもデコボコ四人組のピクニックが始まる!




