金欠なら打とう
「みくびー、買い物行くけど来るか?」
「眠いのでパスでござる」
昨夜、三首は任務で日本に戻っていたらしい。
深夜に出る飛行機は無いので、泳いで往復したそうだ。約四千キロの超遠泳、さすが忍者だね。
しかし、いくらスーパー忍者の三首といえど限界らしく、布団の上で気絶している。
「学校に行くわけじゃないし、護衛なしでも大丈夫だろ」
「……今、フラグが立った気がするでござる」
「いいから寝とけ」
「じゃあ寝ながら付いていくでござる」
三首は布団から立ち上が――らず、床を這って近づき、俺の影に潜り込んだ。
どういう原理なんだと影をツンツンしていると、影から声がした。
「危険が危なかったら呼ぶでござる」
「うん、早く寝ろ」
ということで、影に三首を入れて、俺は街に繰り出した。
ここは、太平洋に浮かぶ一つの島。名をガリヴィー島というらしい。
かなり最近に見つかった島だからか、どこの国にも属しておらず、今は世界政府が管理している。
大きさは四国と同じくらいだが、森林が多く、居住範囲は香川県くらいの面積しかない。
そして、その居住範囲には頂天学校の生徒が暮らすための町、学園都市が形成されている。
静枷が良い例だが、天才の中には害を振りまく者もいるので、隔離するため、わざわざ孤島にこの様な都市が作られたらしい。
町に欲しいものは大体揃っており、コンビニ、スーパー、飲食店から、ゲーセン、カジノ、果ては遊園地まである。
俺的に町に足りないのはポ○モンセンター。
そんな町を、俺は初めて一人で練り歩く。
「今日のメシはどうしようかな」
冷蔵庫に残っているのは、野菜類だったな。
とりあえずメインになるものと、米は確定として――。
「佐藤君じゃないか」
「ギャンフ……」
考え事をしている時に、背中から肩を叩いたのは、クラスメイトのゲイズ・ギャンフだった。
強気な赤い瞳と口調に、勝利を表すオレンジ色の髪。
全て指に金の指輪を嵌め、首にも金のネックレスをかけている、成金のような男だ。
一度、コイツの装飾品が全て静枷が盗まれるという事件があり、その時にたまに話すくらいの仲になった。
「いい所に通りかかったな。丁度喋れるヤツが欲しかったんだ」
「どういうことだ?」
ギャンフは笑顔ですぐそこにあるパチンコ屋を指さした。
「少し金欠でな。増やしに行きたかったんだが、話し相手がいないとやる気が起きなくて」
「あー、なるほど?」
「行こうぜ!」
行ったことないけれど、ちょっと興味あるし……ここ日本じゃないし……。
「行くか」
「感謝するぜ」
「ちなみに、初心者だからな」
「別にいいぜ。俺から誘ったからな、金は全て出してやる」
「金欠じゃないの……?」
「大丈夫だ、今から増やすからな」
自信満々な物言いだが、コイツにはそれだけの実力がある。
何故なら、ゲイズ・ギャンフは賭博学校から来た、最強のギャンブラーだからだ。
店に入ったギャンフは、早速適当な台に目をつけ、並んだ二つの台に適当に数万の金をぶちこんだ。
コイツ本当に金欠なのか……?
「とりあえず、このハンドルを回して、玉をこの穴に入れたらいい」
「分かった」
ギャンフに言われた通り、機体に付いたハンドルを回してみると、銀色の玉が飛び出してきた。
綺麗な玉だぁと感心している間に、穴には入らず、落ちて行ってしまう。
その綺麗な玉が次々と出て来ては、十分の一くらいの確率であたりの穴に入り、その他は外れの穴に消えていった。
「……これで合ってるのか?」
「合ってるぜ。後は運が避ければ――こんな感じで、演出が入る」
「はや!」
ギャンフは、俺が一割の確率でしか入れられなかった穴に、全ての玉を入れていた。
やってみた感じ、玉の挙動は複雑で、かなり運による要素が大きいのに、ハンドル操作だけで全ての玉を操っている。
キュイーン! シュインシュインシュイン!
あたりを引いたらしいギャンフの台からうるさい効果音が流れ始めた。
「な、単純作業だろ? だから話し相手が欲しかったんだよ」
手を繊細かつ高速に動かし、演出中専用の穴に玉を全てぶち込んでいたギャンフは、本当に退屈そうにそう言った。
「……これは、俺が下手なのか?」
「気を落とすことはないぜ。最初はそんなもんだ」
全部入れながら言われても説得力ないんだけど。
「賭博学校の生徒なら、これくらいできるものなのか?」
「無理だと思うぜ。あそこは学校と言う名を冠してるだけの、ただの賭博場だからな。テクニックを学ぶ場ではないぜ」
「……広告では逆のこと書いてなかったっけ。『賭博場じゃなくてテクニックを学ぶ場ですよ~』って」
「それくらい見抜けないようじゃ賭師にはなれないぜ」
「なれなくていいよ」
堅実に生きるタイプだからね。
今パチンコ打ってる感じ、あんまり運がいい人間でもなさそうだし。
「でも、一回行って、見学してみたいな、賭博学校。賭ケグるう感じなのか?」
「そんな感じだな。いつでもどこでもゲームしてるぜ。……俺からすると、普通の学校に行ってみたいけどな」
「普通って……普通ってことだぞ?」
「それをオレは知らないんだよ」
そういうものか。
自分の知らないところに行ってみたい。
「まあ、そんなことはどうでもいいや。もっと他の話しようぜ」
「他のって?」
「コイバナ」
急にブッこんできたので、咽そうになってしまった。
「お、男二人でやることか!? むさいって!」
「いいだろ。佐藤君はかなりモテてるらしいし」
「……三首と静枷か?」
学校が始まってから少し経って、絡むメンバーが固定化し、グループというものができてきた。
外から見ると、俺達三人はかなり仲良く見えるだろう。
が。
「そういうのはないな。ちょっと小さすぎて、対象として見れない」
「カワイイじゃないか」
「俺、自分より大きい人がタイプだから」
俺が身長百七十くらいだから、彼女には百八十くらい欲しい。
……三首が寝てる影が蠢いた気がするけど、気のせいだろ。
「俺が性癖晒したんだから、お前も晒せよ」
「俺は簡単だぜ。俺より賭けに強い人」
「……孫悟○がオラより強い人っていってるようなもんだろ」
「いや、クラスの中に強者の気配がするんだ。俺の勘がそう言ってる」
「何だその勘」
まあ、違う分野の天才達が集まっているから、ギャンブルに強い人もいるかもしれない。
パチンコの玉を全部入れながら言われても、説得力ないけど。
「いま幾らくらい稼いでるんだ?」
「これなら、二十万くらいだな」
「マジか!」
時給換算で四十万。
働くのがバカバカしくなるな。
「佐藤君はあと何発残ってる?」
「千発くらいだ。あと、誠一でいいぞ」
「……じゃあ、誠一君の玉が無くなったら終わりにしようか」
「いいえ、今すぐお帰り願います」
背後から、禿げた中年の店員さんに声を掛けられた。
ネームカードによると、この店の店長らしい。
その店長は、ギャンフのハンドルを回す手を掴み、宣告した。
「お客様は出禁です」
「何故だ。何の不正もイカサマもしていないぞ」
「店に明らかな不利益をもたらすお客様は出禁になるのです。申し訳ございませんが、すぐに換金してお帰り下さい」
「おいおい、ラッシュが終わるまでは待ってくれよ」
ギャンフは店長に一瞥もくれず、掴まれたその右手でハンドルを操り、全ての玉を穴に入れ続けた。
ただ店員さんを無視して、態度悪くパチンコを続けているだけの状況なのに、ギャンフには大物感があった。
さらに、不快になっても仕方ない場面にも関わらず、ご機嫌に口笛を吹き始める。
フィー、フュー
「……聞いてるのか?」
「ぎゃ、ギャンフ?」
ヒュー
「ッ、その耳障りな口笛をやめろ!」
声を震わせた店長が拳を握りしめ、ギャンフの頭に振り下ろした。
ゴン、といかつい音がして、ギャンフは台に顔を突っ込んだ。
「ギャンフ!? おいアンタ、なにやってんだ!?」
「し、知らん! こ、コイツが口笛を吹くのが悪いんだ!」
「おいおい、口笛を吹いただけで殴るのはないだろ」
精神が錯乱したように、震えた声で言い訳をする店長に、ギャンフが立ち上がって接近する。
「誠一、俺の代わりに打っといてくれ」
「お、おう」
「ち、近づくな!」
店長は懐に手を突っ込み、ハンドガンを取り出した。
ここは日本ではないので以下略。
ガタガタ震えた両手で銃を握り、ギャンフの眉間を狙う。
そんな店長に対して、ギャンフは銃口に眉間をくっつけて、穏やかな声で話しかけた。
「落ち着いてくれ、俺は大したことはしていない。殴られたことに対しても、何とも思っていないぜ」
「ほ、本当か?」
「ああ。ただ、ちょっと出禁にされるのは困るなと」
「で、出禁は撤回します! すみませんでした!」
「よし」
店長は慌てて奥に引っ込んで行き、ギャンフは後頭部を撫でながら台に座り直した。
一部始終を見届けた俺は、固まっていた。
急に違う世界に連れてこられたような感覚で、フリーズすることしかできない。
「ラッシュ終わったみたいだな」
「あ、ごめん」
「謝る事ないぜ。……すまない、白けてしまったな。今日はこれで終わりにしよう」
大量のパチンコ玉を換金し、大勝したギャンフに、起きた三首と共に焼肉を奢ってもらってから、解散になった。
焼肉おいしかった。
カタカナ名の人は名前・苗字です。




