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ハート、盗まれちゃった♡

「ふー」


 面倒な掃除が終わって、三限目から授業に合流した。

 一限と二限は一回休んでも大丈夫なヤツだったので、特別な補修とかは必要ないと思う。

 ちょっと嫌なのは、怪我した手がたまに痛むことだ。


「これどれくらいで治るかな」

「なんや、あんた怪我しとるんか?」


 バカでかい絆創膏をした手を眺めていると、隣の席の女子に声を掛けられた。

 優しい顔立で血色が悪く、片手に包帯を巻いた不思議な少女。

 特徴的なのは、その髪だ。生え際は緑だが、肩からは赤くなっており、胸の前で結んでいる。

 たしか、名前は……。


医浪二世(いろうふたせ)、さん」

「せや。ウチは医療学校から来た手当の天才やから、その程度の怪我は一瞬で治せるで。見せてみ」

「はあ」


 どこか胡散臭いけれど、とりあえず絆創膏を剥がして、傷ついた手を見せた。

 少し血が出て、赤くなった手。

 それをフムフムと見た医浪は、俺の手を掴んで固定し、所持していた医療ポーチから怪しげな白い粉を取り出した。


「何それ。ヤバいお薬?」

「正解」

「え?」


 反応する間もなく、医浪はパラパラと白い粉を俺の手にふりかけた。

 サラサラとした砂のような粉は、俺の手に張り付き……肌へと変化する。

 みるみるうちに手が修復されていき、数秒後には怪我は跡形もなくなっていた。


「除菌効果も付いてるから、変な病気の心配もいらんよ」

「あ、ありがとう」


 まるで魔法のように、怪我が治ってしまった。

 これは、確かにヤバいお薬だ。


「何かお返ししたいけど……何かあるか?」

「せやなあ……ちょっとお金貸してくれへん?」

「お金か……」

「千円! 千円でええねん! あと千円で当たる気がするんや!」


 お金の貸し借りは好きじゃないけど……千円なら治療費と考えるか。


「まあいいよ」

「マジ!? じゃあ電子で頂戴」

「ほい」

「ヨッシャ!」


 千円を送った途端、医浪は凄まじいスピードでスマホを操作し、貸した金を直ぐに使う効果音がした。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 当たらんかったあ!」

「うるさい……。当たらんかったんかい」

「百連したのに……百連したのに……」


 泣き崩れた哀れなオタクに悲しみの目を向けた。


「金が足りんわー」

「その治療能力があったら、いくらでも金儲けできそうだけどな」


 適当に感想を言ってみたところ、医浪は急に厳しい目で睨みつけてきた。


「この力で金稼ぎはせんと決めとるんよ」

「そう……なのか」


 医浪の表情からは、深い後悔を感じた。

 持っている者は、持っている者の苦悩があるのか。


「あー、バイトでもしよかな」

「何してるんです?」


 医浪とダベっていると、静枷が近寄って来た。

 珍しいな、他の人と喋っている時に絡んで来るなんて。静枷は人見知りが激しいのに。


「お金が足りないって話だよ」

「え……返却不要の奨学金ありますよね?」


 この学校に通う天才には、月に数十万の奨学金という名の生活費が支給される。

 ちなみに、将来を期待されていない俺には数万しか渡されていない。勝手に攫っておいて冷遇なんて、酷いね。


「そのお金、どこにいったんですか?」

「全部使った」

「はやぁ。何に使ったんだよ」

「このネトゲや!」


 医浪はスマホを操作して、一つのゲームを起動した。

 ちょっと口調が早くなってる。


「ファンタジー系のネトゲで、ギルドのメンバーと協力してボスを倒したり、他ギルドと戦ったりする王道ゲームや。この少しずつ強くなっていく感じが良くてなあ。気づいたらもう十年続けとる。ウチはヒーラー役をやっとるんやけど――」

「ああ、現実が医者だからか」

「それは順番が逆やな」

「というと?」


 相槌とともに、静枷がさらに近づき、医浪に触れた。

 これは、また何か盗ってるな。最近、他人が盗られるのは分かるようになってきた。


「今回は何盗ったんだ?」

「え?」


 珍しく、静枷は盗ったものを袖の中に仕舞わず、手に握っていた。

 それは、赤黒く、ドックンドックンと鼓動する――心臓だった。


「……何それ」

「心臓、ですね」

「誰の?」

「……グフッ」


 数瞬後、医浪が口から血を吹いた。


「何やってんの!? 何やってんの!?」

「すみません、すみません! 無意識に心臓を盗ったことなんて今までなかったんですけど……」

「ああ、大丈夫やで」


 医浪が手を差し出して、その脈を俺達に触らせた。

 一定のリズムで脈を打っており……心臓があることが察せられた。


「……どゆこと?」

「心臓を抜かれたけど再生した。それだけや」

「……?」

「まあ、オタクらしく自分語りといこか。ウチはネトゲが好きでな、昔から主にヒーラーをやっとったんや」

「うんうん」

「それでな、現実でもヒーラーになりたくて、医学の勉強を始めたんや」

「うん?」

「ヒーラーが真っ先に死んだら戦犯やん? っちゅーことで、なんか不死身になれないかなーって自分の身体を弄ってたら、いつの間にか不死身になっとった。だから、心臓が無くなった程度ならすぐ再生できるんや」

「へー(思考放棄)」

「見てみ、人体実験の結果、血が青色になっとる」


 確かに、気が動転していて気付かなかったが、医浪が吐いた血は濃い青色だった。

 心臓からも、青色の血液が出ている。これは自己改造の影響らしい。


「にしても、綺麗に抜いたなあ……どうやったんや?」

「こう、口に手を突っ込んで、グイっと」

「全く気付かなかったんやけど……まあええわ。それより、使いどころ無いならその心臓くれへん? ピチピチな心臓は高く売れるやろ」

「あ、はいどうぞ。元々アナタの物なので」

「ヨッシャ!」


 医浪は心臓をスーパーの袋に入れ、嬉しそうに去っていった。

 やっぱこの学校は狂人しかいねえわ。


 ちなみに、青色の血を出す不気味な心臓なんてまともに使えないと言われ、買い叩かれてしまったらしい。


「静枷ちゃん! もっと心臓抜いて!」

「手が汚れるので嫌ですー!」


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