ショタ枠
「医浪! どこで〇ドアできた!」
「んー、どれどれ」
朝一番に、解李がピンク色の大きなドアを持ってきた。
丸っこくって可愛げがある、漫画で見たままそっくりのどこで〇ドアである。
再現度高いな。
「ん? タケ〇プターはどこいった?」
「飽きた! 今回は凄いよー、スペラに協力して貰ったからね!」
「自信作っす」
流石にどこで〇ドアの再現は難しいと思っていたが、スペラが手伝ったのか。
ならかなり期待でき――。
「動作確認はまだ一回もしてないから、よろしくね、医浪!」
「理論上は動くはずっす!」
「うわ、フラグ爆盛りだ……」
「まあ、ウチに任しとき。行先はどうしよかなあ。とりあえず、ウチの実家とかにしよ」
そう言って、医浪はドアノブに手をかけた。
「ん? なんか重いぞ」
ギ、ギギギギギギギィ!
力いっぱい扉を引いていると、怪しい音を鳴らしながらドアが少しだけ開いた。
その隙間から、医浪の実家らしき建物が見える。
お、これは成功か? と思ったのも束の間。
バキッ
「あっ!」
「知ってた」
ドアが割れ、今までで一番大きな爆発が教室を包んだ。
「大丈夫っすか、誠一さん!?」
「ああ、ありがとうな」
スペラの魔法のお陰で、俺は無傷だった。
丁度三首が先生のお使いでいないタイミングだったから、守ってくれないと死んでいたかもしれない。
スペラがいなかったら、多分解李の盾に隠れてた。
「失敗だね! 何が悪かったんだろう!?」
「まだ機械と魔法の融合が上手くできてないんっすよ。B機関って何するところだったんっすか?」
「忘れた! 設計図みたら分かると思うよ!」
「そうっすね。組み立ては間違ってなかったと思いますし、理論を見直しましょう」
サラッと言って、ボロボロになった教室を放ったまま去っていく二人。
スペラ……常識人枠だと思ってたのに……。なんか、発明のことしか考えてないというか――研究者としての一面が前に出ている。
「ってか、大丈夫かよ医浪」
「んー。流石に今回は死んだかと思ったわ」
爆発の中心地にいた医浪は、身体と頭が別れ、ピ――――(自主規制)だった。
……今までで一番酷い状態だが、生きてはいるらしい。
「ちょっと、身体と近づけてくれへん?」
「えぇ……グロ過ぎて触れたくないんだけど」
「なんかウチの扱い雑になっとらん? しゃあないなあ」
バキバキ、グチャグチャ、ズズズ、ガガガガガ!
まず背骨が生えて、顔と背骨で這って、手足と接続して――まあ、なんだかんだでいつもの医浪に戻った。
……身体は。
「フー。あとで実験代請求しよ」
「お前……それでいいのか、人として」
「ええやろ。とはいえ、これはなぁ」
身体は再生したが、服は再生しておらず、医浪の服は焼け爛れてボロボロになっていた。
大事な部分はかろうじて守れているが、へそは丸見えだし、スカートはほぼ無くなっている。
ちょっとエロさはあるけど、血色が悪すぎる。ゾンビかと思った。……コイツゾンビなんじゃね?
「体操服にでも着替えて来いよ」
「大丈夫や、直してもらう」
一応恥じらいはあるのか、医浪は手で色々隠しながら立ち上がった。
できるだけ服の破片を集めて、彼女の後ろの席に座る男の子の元に持っていく。
「もー、また無茶したの?」
「まあな。悪いけど直してもろてええか?」
「今回だけだよ」
糸を通した針を持った彼は、医浪に触れ――コマ送りのように順々と服が再生していく。
もう片方の手はハサミを持ち、爛れてボロボロになった部分を切り取って、新しいものに置き換え。
十秒後には、何事もなかったように医浪の制服は元に戻った。
「んん、さすがや」
「少し丈夫にしといたから、もう破っちゃだめだよ」
「気を付けるわ」
「どうせすぐ破るだろ」
ある意味、クラスで一番気になっていた人物。
丁度いい機会だし、話しかけてみることにした。
「お兄さん、だれ?」
「佐藤誠一。普通の高校から来た一般人」
「そうだったね、忘れてた。ぼくは衣川電詞。衣服高校から来た……衣服の天才? よろしくね」
地に足が付かない、ソプラノボイスで答えた。
可愛いヤツだな……。医浪の五億倍可愛い。
機嫌は悪くなさそうなので、一番聞いてみたかったことを聞いてみる。
「衣川くんって、何歳なの?」
「……? 十六、ふつうに同い年だよ」
「ふ、ふーん」
本当に十六歳とは思えない。なにせ、小さすぎる。
ロリ体形と言われる三首や静枷ですら小学六年生くらいの体格なのに、衣川くんはあっても小学三年生くらいにしか見えない。
というか精神年齢も幼そう。
「……っていうか、ここだとさっきの爆発に巻き込まれたんじゃないか?」
「だいじょうぶ、防護服着てるから」
「防護服?」
「これだよ」
衣川くんは着ている制服を、手を広げてジャーン、というように見せていたが、俺には普通の制服にしか見えない。
「……触ってもいい?」
「いいよ」
「おい誠一、お前ウチの制服触るときは許可取らんよな?」
「うるさい」
茶々を入れる医浪を黙らせて、衣川くんの服に触れてみた。
硬い、のか? 服としての柔らかさは保っているが、何というか、密度が高い。
制服の皮を被った、防弾チョッキみたいな感じだ。
「こ、これ、俺にも作れない?」
「いいけど――一日に一回はメンテナンスしないと、糸爆発しちゃうよ?」
「やっぱいいです……」
こんな小さい子が、どうやってこの教室で生き残っているのか気になっていたけれど、しっかり自分の得意分野を活かして生存してきたらしい。
良い子だなぁ。俺も見習わないと。
「……なんか、電詞に甘ない?」
「気のせい気のせい」
「コイツ……結構なバカ野郎やぞ」
「何言ってんの?」
「あ、ライブの時間だ」
衣川くんは急にスマホを取り出し――軽快な音楽が流れ出した。
『みんなー、今日は来てくれてありがとう!』
「わー! ライズちゃーん!」
ボーカロイドのライブ。衣川くんは大音量でそれを流していた。
「……ナニコレ」
「アイドルの一音ライズちゃんだよ! ぼくはこの人に衣装を作るために、生きているんだ」
「……ヘー」
雲行きが怪しいような……。
『いっくよー♪ 一曲目、世界を終わらせた、ボク!』
「ライズちゃーん、頑張ってー!」
「……」
「コイツな、何でこんな幼いと思う?」
「……何で?」
「メッチャ小さい頃に一音ライズにハマってな、その頃のライズは予算が少なくて衣装が質素やから、作ってあげようと思ったらしいねん」
「うん、良い話だね?」
「それで衣服作り始めたんや……」
「何で電子の歌姫の服作るのに、現実の服を作ろうとしてるんですか?」
「そりゃ小さかったからやろ。それで引きこもって服ばっか作っとったから、コイツこんな精神年齢低いねん」
何その……バカみたいな理由。
ライブに集中して、俺達の会話が全く耳に入っていない衣川を見下ろした。
「え、じゃあ何でコイツこんなに小さいの?」
「精神年齢に引っ張られとるんちゃうか?」
「ライズちゃーん!」
さっきまで弟くらいの感覚だったのに。
スマホでライブ観戦するこの生き物が、ただのバカに見えてきた。
「だから言っとるやろ。ネットだと結構有名やで、ボーカロイドにずっとリアルの衣装を送るバカがいるって。出来はメチャクチャ立派やから、再現班が毎回泣かされとるらしい」
「えぇ……」
「銃撃されたら大変やからって、全部に防弾仕様組みこんどるしな。一応言っておくけど、凄いことなんやで。自由度が高いバーチャル世界でも採用される服をリアルで作っとるんやから」
「まあ、それはそうか」
チラりとライブを覗いてみると、ボーカロイドが着ていた衣装はキラキラ光るエレキチックなもので、現実にこれがある光景が全く想像できなかった。
もうなんか、一周回って健気に見えてきたわ。
「その話、してあげないの?」
「出来へんよ」
「だよなぁ」
『ありがとー! 次の、曲いっくよー♪』
「頑張れー!」
足をバタバタさせながら電子の歌姫に声援を送る衣川。
彼がボーカロイドというものを知るのは、いつになるのだろうか。そして――知った時にどうなってしまうのだろうか。
想像するだけで、血が冷たくなった。
「……もうちょっと見守ろうか」
「せやな」
「今回のライブも良かったなー! そうだ、次回の衣装は――」




