歌え!
キーンコーンカーンコーン
「今日はここまでです。中間テストが迫っているので、ちゃんと勉強しておいて下さいね」
『はーい』
「……では、さようなら」
『さよなら』
挨拶が終わると同時に、教室中が騒がしくなる。
うるさいな……。最初の頃はみんなさっさと帰ってたのに、いつからこうなったんだろう。
「主殿、今日は軽音部の活動はないでござったな」
「ああ。スポーツ部も何もないんだっけ?」
「はい」
「……せっかくだし、静枷も誘ってどこかに遊びに行こうぜ」
「そうでござるな」
クールに返しているが、制服から飛び出た尻尾は嬉しそうにピコピコ動いていた。
ん……? 三首に尻尾なんてあったっけ?
もしかして、学校に慣れてきて、尻尾を隠すのを忘れている?
「どうかしたでござるか?」
「……何でもない。静枷がこっちに来たら面倒だし、さっさと行こう」
言ったら隠してしまいそうだ。可愛いし、黙っておこう。
手早く荷物をまとめて、二人で静枷の元へ向かった。
「遅かったですね。今日はどこに行きましょう?」
「おぉう。……遊びに行く話したっけ?」
「そういう流れになっていると思いまして。それで、どこか行きたい場所はありますか?」
「はい! 拙者、ボーリングがしたいでござる」
「三首さんに蹂躙される未来が見えるのですが……。まあ、一度やってみましょう」
「あー、その前に、ちょっとだけ寄りたい場所があるんだけど、いいか?」
「いいでござるが……どこへ?」
「カラオケ」
『教えてよ、君は、誰なんだ』
「「おぉ~」」
一曲歌い終えて、俺はソファに座り直した。
今歌った曲は『フーイズMEOU』、最近よく聞く、お気に入りの曲だ。
音域的にも歌いやすく、最近軽音部で習ったテクニックを全て使った、今出せる最高傑作。
その点数が、出る。
「85! よっしゃ、最高得点! ……悪いな、知らない曲に付き合わせちゃって」
「いいですよ。好きな曲だっていうのが、伝わってきましたから。じゃあ次は私の番ですねー」
「お、『世界を終わらせた、ボク』じゃねーか。やれやれ!」
「知っているのでござるか?」
「ああ……ちょっと色々あってな」
静枷が設定したのか、モニターに一音ライズのライブ映像が映し出された。
煌びやかな衣装で踊る一音ライズ。これ、衣川が作ったのかぁ。
『……気づいたら、終わってたんだ。終わらせてたんだよ、世界を――僕が』
相も変わらず、静枷は機械のような声でボカロ曲を上手に歌いこなす。
無意識になにか学べないかと探っていたが、訳が分からず諦めた。
「ってか、次は三首だぞ。何か入れろよ」
「は、はい……これ、どうやって使うのでござるか?」
「……タップするだけだけど」
「タップ? ……どこを?」
目をグルグルまわしながら、首を傾げた。
そういえば、三首って最近までスマホも持っていない、機械音痴だった。
「俺が入れるから、曲名だけ教えてくれ」
「かたじけない……では『古今東西 雨酒』という曲を入れて下され」
「オッケー」
キーボードで入力する俺の手を、三首はキラキラした目で見つめていた。
別にそんな凄い事してないんだけどな……。
「よし、入れといたぞ」
「感謝するでござ――」
『一人はちょっと寂しくて、だからやりたくなかったんだ』
歌いながら、静枷が俺の膝の上に乗ってきた。
この重さ……何か盗ってるな。後で出させないと。
「歌えます?」
「あんま聞いたことないけど……」
「いいんですよ」
上目遣いで差し出されたマイクを受け取り、音楽に乗って歌い出した。
あ、音を外した。まあしゃあない。
もうラストスパートだ、静枷に合わせて歌い切ろう。
『『バイバイ。さよなら、世界よ』』
ノリだけで声を上げていると、いつの間にか歌い終わっていた。
「まだまだですね。まずは電子音を出さないと」
「やだよ。先に普通の歌を歌えるようにならないと」
「次は、拙者でござるな」
三首がマイクを手に取って立ち上がった。
曲は『古今東西 雨酒』だっけ? 聞いたことないけど……どんな曲なんだろう。
スゥっと息を吸い込んで、力強く歌い出す。
『あ~、雪が舞います、港の夜に。あなた恋しと、カモメが哭いた』
……メチャクチャ渋い演歌だった。
あの小さな体から、どうやって古臭い声を出しているんだ?
絵面だけだと笑ってしまいそうなのに、三首の本気の表情と歌声に魅入られ、いつの間にか俺達は息を飲んで彼女を見守っていた。
「……盛り下げてしまったようでござるな」
「いやいやいや! 良かった。なんかこう……真っすぐ心に刺さった」
「凄かったです」
「って、次は俺の番か。入れてなかったわ。ちょっと待ってろよ」
一時間しかないから、さっさと入れないと。
俺も、三首みたいに観客を圧倒するような歌を歌えないかな。
「……じゃあ『立体道』行きます!」
「ん、知ってる曲でござる」
「お、一緒に歌うか?」
「はい!」
「頑張ってくださーい」
俺も三首も少し外れた第一声を上げ、静枷が笑いながらマラカスを振る。
三人で歌いまくっているうちに、一時間なんてすぐに経ってしまった。
「もう終わりか……。付き合ってくれてありがとうな」
「あと三十分、いえ、一時間延長しても大丈夫でござるよ」
「キリがいいですし、ここら辺にしときましょう。次はボーリングですよ」




