お掃除回()
「では、さようなら」
「さようなら」
終礼も終わり、放課後の時間に入った。
「主殿、今日は部活はないのでござるか?」
「今日は二年生が何かやるらしくて、開始が遅いんだよ」
「そうでござるか……拙者はスポーツ部があるので」
「おう、頑張れよ。今日は何するんだ?」
「高跳びでござる」
「高跳び……?」
「高跳びとは――」
「いや、種目としては分かるけど、あんまそういうところでやるイメージが湧かなくて……」
「意外と楽しいものでござるよ?」
楽しい、か?
よく思い返すと、みんなでワイワイ跳べるか跳べないかで騒ぐのは結構楽しかった気がする。そういう競技もするんだなあ。
「主殿もどうでござるか? 飛び入り参加歓迎でござるよ」
「ああ……また今度な。今日は軽音があるから」
「そうでござったな。では」
爽やかな雰囲気で、三首は先に教室を出ていった。
スポーツ部……たまに校庭で見るけど、結構楽しそうなんだよな。
種目によっては、本当に一回行ってみるのもありかもしれない。
といっても、超人達と接触する競技は危ないから、今日の高跳びとか……アーチェリーとか、そういうのになるかな?
「楽しそうですね、誠一さん」
「そうか?」
同じく練習が始まるまで暇な静枷がやって来た。
「静枷には得意なスポーツとかあるのか?」
「スポーツ……ヨガ、ですかね。身体柔らかいんですよ」
「そうなの?」
「はい。これ、できますか?」
静枷は手首を内側に曲げ――グイグイと折れ曲がっていき、遂には手首を掴んだ。
「何それキモい!?」
「ふ、できない人の戯言です」
「えぇえぇぇ?」
試しに俺もやってみたが、直角以上には曲がらない。
もう片方の手で無理やり折り曲げようとしたら、手がもげるイメージが浮かんだのでやめた。
「マジでどうやってんの?」
「関節が柔らかいんです。こんなこともできますよ」
顔を傾けて耳を見せつけたかと思うと、ピクピクと動き出した。
それだけでも「おお!」っとなっていたのに、耳を塞ぐようにパタンと閉じた。
こっちは手で無理やり動かしたらできるだろうが、静枷は全く触らないでやっている。
もちろん俺も試してみたが、耳は微動だにしなかった。これ、神経通ってんのか?
「……こんな身体の柔らかさが、静枷の盗みの技術を支えているんだなあ」
「そういうことです」
「じゃあ、L字バランスとかもできるの?」
「とうぜ……」
グググっと足を上げて、足首を手で掴んだところで動きが止まった。
「……誠一さん」
「いやー、できないかー。L字は難しいかー」
「……!」
恥ずかしくて、顔が真っ赤になっている。
気づいたのだろう……制服でL字バランスをするとパンツが見えると!
「残念だな、人生で一度は見たかったのに、L字バランス」
「……目玉盗みますよ」
「すみませんでした」
「ですが、いいでしょう」
静枷は、またグググっと足を上げ始め――足を掴んでいない方の手でスカートを掴み、俺からパンツを隠した。
身体の柔らかさだけではない、凄まじいバランス感覚。
ドヤ顔をするのも納得である。
「どうですか!」
「……すげぇよ、俺の完敗だ」
「こっちからは丸見えやけどな」
「キャッ」
後ろの医浪に指摘されて、直ぐにL字バランスを崩して座り込んでしまった。
まあ……女子同士だからセーフだろ。
「どうだった?」
「可愛いパンツやったよ」
「それ以上言ったら心臓盗みますよ」
「ドンと来いや!」
脅しが効かず、恨めしい目で医浪を睨む静枷。
ちょっといじわるし過ぎたかな。
後でジュースでも奢ってあげようと思っていると、目の前を小さな影が横切った。
「医浪! タケコ〇ター零号機できた!」
「ンー、どれどれ」
前に爆発したプロペラを作り直したのだろう、少し大きくなった黄色いプロペラが解李の手に握られていた。
医浪はそれを受け取ったかと思うと、なんの抵抗もなくそのプロペラを頭の上にくっ付ける。
「大丈夫? それ爆発しない?」
「大丈夫やろ、爆発してもウチは耐えれる」
「逃げるぞ!」
「はい!」
すぐに教室の外に逃げ出して、しかしあのプロペラがどのような動きをするのか気になるので、顔だけひょっこり出した。
ドアも構えて、何かあったらすぐに危機回避できる体勢である。
そんな俺達の逃げように苦笑してから、医浪はプロペラの頂点を押して起動した。
ヴヴヴヴ!
モーターが回るような音がして、プロペラが回り出す。
そして、本物のタケコ〇ターのごとく、医浪の身体がフワリと浮かび上がった。
「おー、凄いやん」
「でしょ!」
「どんな技術だよ……」
「盗みにも使えそうですね」
あんな小さな装置で人一人飛ばすことができるのか……。
そういえばもう2070年だし、二十二世紀には一般的なものになると考えると、もう人間には手が届く技術なのか……?
「というか、アレならパンツ見えそうですね」
「足元に行ったらな」
「見たいんか? ほれほれ」
スカートを見えるか見えないかのラインでパタパタさせて煽って来る医浪。
なんか、こうも露骨だと萎えるんだよな……。
相手医浪だし。
冷めた目で見ていると――医浪の顔が変わった。
「なあ……これってどうやって止めるん?」
「スイッチ入れる時と同じだよ!」
「……こんな状態でスイッチ探すのムズいんやけど。プロペラ触ったら手は吹き飛ぶやろうし」
「……あっ」
ヴヴヴヴ
プロペラの音だけが虚しく響く。
教室にはもう二人しか残っていなかった。
「……医浪ならできる! きっとできるよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
プロペラに触れないよう大周りしながら、大胆に右手をスイッチに近づけていき――指を巻き込み、血が入ったタケコプター零号機は爆散した。
俺達はバカな挑戦を始めた時点でドアを閉めたので無傷だった。
ちなみに、解李は防護盾のようなもので身を守っていたので、被害を受けたのは医浪だけだった。
「医浪……バカな奴だった」
「本当にバカな人でしたね」
頭が吹き飛んだ医浪の身体を見下ろしながら、溜息をついた。
……っていうか、本当に大丈夫だよな? 脳が破壊されたら再生できないタイプの能力者じゃないよな?
「大丈夫や、そんなヤワな鍛え方はしとらん」
「うわ、キモ!?」
「ぞ、ゾンビか何かですか?」
鼻より上が無い状態で喋り出した。
マジで……何だコイツ。
驚愕してる間にも、脳のようなものが形成され、頭蓋骨のようなものがそれを包んでいく。
「今どこで考えて喋ってるんです?」
「実は脳六つあるんよ」
「無〇様かな?」
「ジョークや、脳は三個だけやな。ちなみに、全部吹き飛んでも死なんかったよ」
「さっすが医浪!」
解李は無邪気に賞賛しているが、俺達は普通にドン引きしてた。
なんか、ここの生徒には大なり小なり憧れる部分があったけど、コイツの力はちょっといらないかなぁ。
「逆にどうなったら死ぬんだよ……」
「さあ? 唯一のサンプルが生きとるんやから分かる訳ないやろ。細胞全部死滅したらさすがに死ぬんちゃうか?」
「では、実験してみます?」
振り返ると、教室の入口に天上先生が立っていた。
額に青筋を浮かべながら。
「天ちゃんやん。どうかしたん?」
「どうかしたん? じゃありません! 教室が血まみれじゃないですか!?」
医浪の頭の血が飛び散ったのだろう。
教室のいたるところに青い血が飛び散っていた。
「二人とも、今日は教室を綺麗にするまで帰しません」
「えー!」
「私も!?」
「当たり前でしょう」
「……女々華呼んで良い?」
「二人でやりなさい」
先生が持ってきたブラシで、渋々教室掃除を始めた二人。
二人でやるとのことなので、俺達は無視して部活に行くことにした。
「そうや、今日の実験代は?」
「掃除することになったから減額!」
「そんなぁ! 解李が制御装置作らんのが悪いやん」
「一発でスイッチ押せない医浪が悪い!」
教室から聞こえて来る二人の言い争いに苦笑しながら、階段を上がっていった。




