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おじいちゃん

「先輩、ここの音がうまく出ないんですけど――」

「どれどれ? あー、ちょっと力が弱いかな。もっとガツンとやっていいよ!」

「こう、ですか!?」

「そう、そんな感じ!」


 柔院先輩の言う通り、ガツンと弦を弾くと、うまく音が出てくれた。

 先輩にお礼を言ってから元の席に戻り、練習を続ける。


 俺と静迦は、仮入部が始まった日から、ほぼ毎日軽音部の練習に参加するようになっていた。

 自分が少しずつうまくなっていくのが好きで、ずっとギターを握っている。

 そして、今日は仮入部期間の最終日だった。


「あと10分で終わるからな」

「早いですね」


 いつもなら19時くらいまでやるのに、今日はその30分前に終わってしまうらしい。

 素直に疑問を口にすると、来間先輩は理由を教えてくれた。


「今日はこの後予定があるからな」

「予定?」

「そうだ、楽しみにしておくといい」

 

 そう言って、先輩は口角を上げた。



 あっという間に練習時間が終わり、惜しみながらも楽器を片付けた。

 いつもならここで自由解散になるのだが、今日はこの後に何かあるらしい。

 改まって先輩方が前に立ち、俺と静迦は席に座った。


「一応確認しておくが、二人はこのまま入部するということでいいか?」

「「はい」」


 俺たちは声を揃えて返事した。

 昨日、静香は入部しようか悩んでいるという相談をされたのだが、どうやら入部するつもりらしい。

 一年が一人だと悲しいので、心の中で感謝した。


「やったー! ようこそ軽音部へ!」

「ぐえっ」


 二人とも大手を広げた柔院先輩に抱きつかれ、ギュッと抱きしめられた。

 うわあ、体柔らかいし、なんかいい匂いがする。

 そんなことを考えたのも束の間、体からミシミシ音が鳴り出した。


「イタタタ! 先輩力強い! ギブギブ!」

「キュー」

「あ、ごめんね!」


 静枷が変な声を出したお陰か、パッと離してくれた。

 柔院先輩は、人の身体が分からないのが玉にきず。この人本当に看護師か?

 そのせいで、我々一年は來間先輩の方になつきつつある。


「話を戻すが、今日はこれから新入生の歓迎会をする。予定とか大丈夫か?」

「大丈夫です」


 さっき三首も部活の新入生歓迎会に行くと連絡があったし、丁度いい。

 ちなみに、前の事件があってから三首にはスマホを持たせるようになった。

 忍者を辞めるつもりは無いが、面倒な(おきて)はここでは無視するらしい。ただ、今まで電子製品に触れたことがなかったせいか、おばあちゃんのように頭に?を浮かべていた。


「よし、俺が車で連れて行ってやる。乗れ」

「はーい」


 運転学校出身なので、当たり前と言えば当たり前なのだが、車先輩は自動車を持っているらしい。

 車種は黒塗りのランボルギーニ。流線形のフォルムが特徴の高級車である。


「わー、立派な車ですねー」

「お前は触るんじゃねえ!」


 車に触れようとした静枷を後ろから締め上げた。


「別に高いものなんて置いてないから大丈夫だぞ」

「甘いっすよ先輩。こいつは触れただけでシートの綿を抜きます」

「……そんなことないですよ」

「お前は俺の上に乗っとけ」


 車に指一本触れさせないよう注意しながら後部座席に乗り込み、膝の上に静枷を乗せた。

 中学生程度の体格の静枷は、想像よりは重かったが、しっかり俺の上に収まった。

 來間先輩が運転席に乗り、柔院先輩が助手席に乗り込む。


「シートベルトしたか?」

「はい」

「じゃあ出るぞ」


 俺達が不安定だからか、スピード感がありながらもどこか安定した動きで、車は学校を出た。

 この島でも、車通りはそれなりにあるため、その流れに乗って車を動かす。

 さすが運転学校の優等生というべきか、それとも乗っている車が高級車だからか、ヌルヌルと動く感じはとても心地よかった。


「運転学校って、レースの技術を学ぶって聞いてたんですけど、普通の運転も上手いんですねー」

「……な、……ろ」

「ん?」


 俺の言葉を無視して、ずっとブツブツと何かを呟いている來間先輩。

 何を言っているのだろうと、耳を近づけ――


「ウィンカー出さずに車線変更するな車体間隔もっと開けろ強引に割り込んでくんな幅寄せすんな爆音でステレオ流すなそこの車今の黄色信号止まれたろ」


 ………一生周りの車に文句言ってる。

 その呪詛のような文句に顔を青くしていると、助手席の柔院先輩が振り返ってフォローしてくれた。


「ごめんね、おじいちゃん車乗るとこうなっちゃうの」

「はは」


 乾いた笑いしか出なかった。

 今までおじいちゃんと呼ばれている理由が分からなかったが、今理解した。

 うちのおじいちゃんも運転したらこんな感じになるわ。声もガサガサしてるし。


「おじいちゃん、あんまり後輩怖がらせちゃだめでしょ」

「あ、悪い」


 柔院先輩が後ろから首を掴むと、來間先輩はいつもの感じに戻った。

 なんか、本当に憑りつかれているみたいで怖いな。静枷とかちょっと震えてるし。


「やっぱ地上の道はダメだわ。上から行く」

「……?」

「しっかりしがみついとけよ」


 來間先輩がそう言ったかと思うと、車体が斜めに傾いた。

 車は虚空の道を走り、道路を離れていく。

 羽もプロペラも付いていないのに。俺達を乗せたは空を飛んだ。


「そんな、車が空を飛ぶなんて」

「あり得ないですよ」

「アニメのOPじゃないんだから」


「飛んだあ!」


 他の車が道路を駆けるなか、うちの車だけ空を飛んだ。

 いや、これは飛んでいるのか? 確かにタイヤが地面を踏みしめているような感覚がある。

 飛行機でも飛び始めはガタガタするのに、車でこんなにスムーズに空が飛ぶなんてことがあるのだろうか。


「これって――どういう原理なんですか?」

「空の道を見た」

「……へー」


 もう「そういうものか」としか思わなかった。

 先輩は結構一般人寄りだと思っていたけど、ひとたび車に乗ってしまえばこうなるのか。


「そろそろ着くぞ。車体が傾くから、静枷を落すなよ」

「はーい」


 言われた通り静枷を落さないよう、腰に手を回してギュッと抱きしめた。


「せ、誠一さん?」

「何も盗むなよ」


 車体が傾き、静枷を落としそうになったので、力を入れ直した。

 静枷は体中赤くなり、体温が上がっている。

 あーこれ、俺から大量に盗んでるな。後でジャンプさせないと。

 そんなことを考えているうちに、先輩はスルっと駐車を完了させ、俺達はファミレスに着いた。


 また新作考えてるので、更新マチマチになります。

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