賭師
「コレは――どういうことでしょう」
「さあ? どっちかがイカサマでもしているんじゃないか」
さっき自分で「自引きしているな」とか言ったくせに、ギャンフは白々しくのたまった。
だが、どちらがイカサマをしているかは、当事者の二人以外には誰も特定できない。
普段からイカサマをするギャンフの方が心象的には怪しいが、シスタの引きがおかしいのも事実。
二人ともイカサマをしている可能性すらある、この状況で。
「まあいいでしょう。ポーカーではありえない事ですが、引き分けという事で、カードを引き直しましょう。賭け金は――変える必要、ありますか?」
「無いね」
「二人がそれでいいなら、ゲームを続行する」
ロイヤルストレートフラッシュを一セットだけ戻して、カードの内容を確認してから、53枚のカードをシャッフルしていく。
その間に、しれっと残ったロイヤルストレートフラッシュに手をつけようとしたギャンフだったが、シスタの方が早かった。
「いらないカードは、こうしてしまいましょう」
カードを捻って、ビリビリと破ってしまった。
反応的に、外からカードを追加しているのはギャンフの方か。
いつイカサマをしているのだろうか?
彼の動きに注視するが、そんな素振りは一切見せず。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
出されたカードは、ロイヤルストレートフラッシュだった。
そして、シスタが出したカードもまたロイヤルストレートフラッシュ。もう訳が分からない。
二度三度とカードを配り直すも、全てロイヤルストレートフラッシュ。
トランプがそれしか無いのかと錯覚するような、超常現象だ。
「埒があきませんね……。どちらかがカードを追加しているのは明らかですので、プレイヤーはカードに触れず、誰かに見せてもらうというのはどうでしょうか?」
「……いいだろう。誠一」
「俺?」
ギャンフに指名され、その側に着いた。
シスタも適当な人を指名し、これで二人はカードに触れなくなった。
ディーラーの王からカードを受け取り、それをギャンフに見せる。
その内容は――ブタだった。
「マズいな」
「……今何つった?」
「何でもない。カード交換、右の二枚」
指示通りカードを交換し――再度カードを見ると、ロイヤルストレートフラッシュになっていた。
「……何がマズいんだよ」
「シスタが毎回ご丁寧にカードを破るせいで、もうカードが無い」
「それはマズいわ」
今回は一旦引き分けたが、もうギャンフはロイヤルストレートフラッシュを撃てない。
対して、相手のロイヤルストレートフラッシュラッシュはいつ終わるか分からない状況。
「誠一、金貸してくんね?」
「もうお前にほぼ取られてんだわ」
「ジョークだ。ちょっと……王と交代してくれないか?」
「……それくらいなら」
何の意図があるか分からないが、王と交代して、俺がディーラー、王がギャンフにカードを見せる役になった。
ギャンフからロイヤルストレートフラッシュのカードを受け取り、53枚になったトランプを何も考えずにシャッフルしていく。
「……そのカード、少し貸してもらってもいいですか?」
「え?」
「シャッフルするだけですので」
一応ギャンフに確認をとってから、シスタにカードを渡した。
特にカードの中を見ることもなく、ただ入念にカードをシャッフルしながら、その意図を教えてくれた。
「いくら私が神に祈ろうと、存在しない事象を起こすことはできません。そのため、シャッフルが不十分だと狙ったカードが引けなくなってしまいます」
「俺のシャッフルが甘いってこと?」
「先程までの王さんが上手かっただけです」
十分にカードを混ぜてから、カードを返してきた。
シスタがシャッフルしたから、ギャングにも同じ権利があると、カードを渡そうとしたが、彼はフルフルと首を振ってその権利を放棄した。
先程までとは、何かが違う雰囲気を感じる。
均衡が崩れ、勝敗がつく。
事情を知る俺以外の人間もそれを感じ取ったようで、教室内は静まり返っていた。
「カード交換、一枚」
「了解」
シスタの代理人からカードを一枚受け取り、一枚を渡した。
いつものセットが揃ったのか、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「どうです? 神の御技は」
「……カード交換、三枚」
「フフフ。今ゲームを降りたら、信仰かお金、どちらかはあなたの手元に残してあげますよ」
「慈悲深いな」
「聖職者ですから」
「だが断る」
ギャンフはそう言ってニヤリと笑った。
そんな彼を、シスタは感情の無い顔で見下ろす。
「先程の会話は聞こえていました。もうあなたに私のロイヤルストレートフラッシュと引き分ける手段はありません。何故そんな無意味なことをするのです?」
「決まってるだろ。俺は賭師だからだ」
ギャンフは王からトランプを取り上げ、机に叩きつけた。
そのカードは、明らかにロイヤルストレートフラッシュではない。
♧6、♧Q、♤6、♡2、♧A。できている役は、6のペアのみ。
ハァとため息をつき、シスタもカードを公開した。
それは一瞬、ロイヤルストレートフラッシュ――に、見えた。
が、違う。
♤Qがない、♢4になっている。
役は――何も無い。ブタだ。
「えっと、ギャンフは6のペアで、シスタは役なしだから……ギャンフの勝ち!」
「はあああああ!」
ギャンフは深くため息をつき、天を仰いだ。
そんな彼に、シスタは手を差し出した。
「神は、最後にあなたに微笑んだようです。良い祈りでした」
「ああ、いい勝負だった」
「どうです、コレを気にサウゼ教に入信するというのは」
「お前が俺に勝ったら入信してやるよ」
そう言って、二人はガッツリ握手した。
「よかったな、最後の最後でシスタがミスってくれて」
「ん? ああ、そうだな」
片付けを手伝っている間。
俺の何気ない言葉に、ギャンフは何か言いたげな感じで返答した。
普段のギャンフなら、絶対にしないミス。
激戦の後で疲れていたのだろう。
彼の懐から、♤Qのカードが落ちた。
それは、シスタのロイヤルストレートフラッシュに必要だった、最後のワンピースだ。
「お前これ……」
「……あいつ自身が言ってただろ。『ありえない事象は起こせない』カードを抜けばスカすと思っていた」
「なるほど?」
「ちなみに、お前にディーラーを代わってもらったのもコレが理由だ。王だと、一枚の増減に気づく可能性があった」
「俺が間抜けみたいに言ってるけど、一枚の違いに気づく方がおかしいだけだからな」
全く、ここにいると普通にしてるだけなのに自信を失う――な?
「おい待て、それだと代わりに引いた一枚がQだっただけで負けるじゃねえか!」
「何言ってるんだ、そもそも♤だったらフラッシュで負けだぞ。それどころか、強いカードばかり抱えてるから、ペアを揃えられるだけでだいぶ厳しいな」
確かに。実際ギャンフが作れた役は6のペアだけで、シスタが持っていたカードのどれがペアになっても敗北していた。
「よくあんな得体が知れない奴と、そんな賭けをできたな……」
「言っただろ、賭師なんだよ、俺は」
明日は更新ないよ




