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20/22

賭師

「コレは――どういうことでしょう」

「さあ? どっちかがイカサマでもしているんじゃないか」


 さっき自分で「自引きしているな」とか言ったくせに、ギャンフは白々しくのたまった。

 だが、どちらがイカサマをしているかは、当事者の二人以外には誰も特定できない。

 普段からイカサマをするギャンフの方が心象的には怪しいが、シスタの引きがおかしいのも事実。

 二人ともイカサマをしている可能性すらある、この状況で。


「まあいいでしょう。ポーカーではありえない事ですが、引き分けという事で、カードを引き直しましょう。賭け金は――変える必要、ありますか?」

「無いね」

「二人がそれでいいなら、ゲームを続行する」


 ロイヤルストレートフラッシュを一セットだけ戻して、カードの内容を確認してから、53枚のカードをシャッフルしていく。

 その間に、しれっと残ったロイヤルストレートフラッシュに手をつけようとしたギャンフだったが、シスタの方が早かった。


「いらないカードは、こうしてしまいましょう」


 カードを捻って、ビリビリと破ってしまった。

 反応的に、外からカードを追加しているのはギャンフの方か。

 いつイカサマをしているのだろうか?

 彼の動きに注視するが、そんな素振りは一切見せず。


「ロイヤルストレートフラッシュ」

「ロイヤルストレートフラッシュ」


 出されたカードは、ロイヤルストレートフラッシュだった。

 そして、シスタが出したカードもまたロイヤルストレートフラッシュ。もう訳が分からない。

 二度三度とカードを配り直すも、全てロイヤルストレートフラッシュ。

 トランプがそれしか無いのかと錯覚するような、超常現象だ。


「埒があきませんね……。どちらかがカードを追加しているのは明らかですので、プレイヤーはカードに触れず、誰かに見せてもらうというのはどうでしょうか?」

「……いいだろう。誠一」

「俺?」


 ギャンフに指名され、その側に着いた。

 シスタも適当な人を指名し、これで二人はカードに触れなくなった。

 ディーラーの王からカードを受け取り、それをギャンフに見せる。

 その内容は――ブタだった。


「マズいな」

「……今何つった?」

「何でもない。カード交換、右の二枚」


 指示通りカードを交換し――再度カードを見ると、ロイヤルストレートフラッシュになっていた。


「……何がマズいんだよ」

「シスタが毎回ご丁寧にカードを破るせいで、もうカードが無い」

「それはマズいわ」


 今回は一旦引き分けたが、もうギャンフはロイヤルストレートフラッシュを撃てない。

 対して、相手のロイヤルストレートフラッシュラッシュはいつ終わるか分からない状況。


「誠一、金貸してくんね?」

「もうお前にほぼ取られてんだわ」

「ジョークだ。ちょっと……王と交代してくれないか?」

「……それくらいなら」


 何の意図があるか分からないが、王と交代して、俺がディーラー、王がギャンフにカードを見せる役になった。

 ギャンフからロイヤルストレートフラッシュのカードを受け取り、53枚になったトランプを何も考えずにシャッフルしていく。


「……そのカード、少し貸してもらってもいいですか?」

「え?」

「シャッフルするだけですので」


 一応ギャンフに確認をとってから、シスタにカードを渡した。

 特にカードの中を見ることもなく、ただ入念にカードをシャッフルしながら、その意図を教えてくれた。


「いくら私が神に祈ろうと、存在しない事象を起こすことはできません。そのため、シャッフルが不十分だと狙ったカードが引けなくなってしまいます」

「俺のシャッフルが甘いってこと?」

「先程までの王さんが上手かっただけです」


 十分にカードを混ぜてから、カードを返してきた。

 シスタがシャッフルしたから、ギャングにも同じ権利があると、カードを渡そうとしたが、彼はフルフルと首を振ってその権利を放棄した。


 先程までとは、何かが違う雰囲気を感じる。

 均衡が崩れ、勝敗がつく。

 事情を知る俺以外の人間もそれを感じ取ったようで、教室内は静まり返っていた。


「カード交換、一枚」

「了解」


 シスタの代理人からカードを一枚受け取り、一枚を渡した。

 いつものセットが揃ったのか、彼女は不敵な笑みを浮かべる。


「どうです? 神の御技は」

「……カード交換、三枚」

「フフフ。今ゲームを降りたら、信仰かお金、どちらかはあなたの手元に残してあげますよ」

「慈悲深いな」

「聖職者ですから」

「だが断る」


 ギャンフはそう言ってニヤリと笑った。

 そんな彼を、シスタは感情の無い顔で見下ろす。


「先程の会話は聞こえていました。もうあなたに私のロイヤルストレートフラッシュと引き分ける手段はありません。何故そんな無意味なことをするのです?」

「決まってるだろ。俺は賭師(ギャンブラー)だからだ」


 ギャンフは王からトランプを取り上げ、机に叩きつけた。

 そのカードは、明らかにロイヤルストレートフラッシュではない。

 ♧6、♧Q、♤6、♡2、♧A。できている役は、6のペアのみ。


 ハァとため息をつき、シスタもカードを公開した。

 それは一瞬、ロイヤルストレートフラッシュ――に、見えた。

 が、違う。


 ♤Qがない、♢4になっている。

 役は――何も無い。ブタだ。


「えっと、ギャンフは6のペアで、シスタは役なしだから……ギャンフの勝ち!」

「はあああああ!」


 ギャンフは深くため息をつき、天を仰いだ。

 そんな彼に、シスタは手を差し出した。


「神は、最後にあなたに微笑んだようです。良い祈りでした」

「ああ、いい勝負だった」

「どうです、コレを気にサウゼ教に入信するというのは」

「お前が俺に勝ったら入信してやるよ」


 そう言って、二人はガッツリ握手した。




「よかったな、最後の最後でシスタがミスってくれて」

「ん? ああ、そうだな」


 片付けを手伝っている間。

 俺の何気ない言葉に、ギャンフは何か言いたげな感じで返答した。


 普段のギャンフなら、絶対にしないミス。

 激戦の後で疲れていたのだろう。

 彼の懐から、♤Qのカードが落ちた。

 それは、シスタのロイヤルストレートフラッシュに必要だった、最後のワンピースだ。


「お前これ……」

「……あいつ自身が言ってただろ。『ありえない事象は起こせない』カードを抜けばスカすと思っていた」

「なるほど?」

「ちなみに、お前にディーラーを代わってもらったのもコレが理由だ。王だと、一枚の増減に気づく可能性があった」

「俺が間抜けみたいに言ってるけど、一枚の違いに気づく方がおかしいだけだからな」


 全く、ここにいると普通にしてるだけなのに自信を失う――な?


「おい待て、それだと代わりに引いた一枚がQだっただけで負けるじゃねえか!」

「何言ってるんだ、そもそも♤だったらフラッシュで負けだぞ。それどころか、強いカードばかり抱えてるから、ペアを揃えられるだけでだいぶ厳しいな」


 確かに。実際ギャンフが作れた役は6のペアだけで、シスタが持っていたカードのどれがペアになっても敗北していた。


「よくあんな得体が知れない奴と、そんな賭けをできたな……」

「言っただろ、賭師(ギャンブラー)なんだよ、俺は」


 明日は更新ないよ

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