確率? 知らない子ですね
「私がお相手しましょう」
「アンタは……」
「シスタです。シスタ・ミス」
ピンク色の髪に、黄色い外套を羽織った、一風変わった少女。
ネックレスのように首から下げた十字架のような物に祈りを捧げながら、席に座った。
「ルールは?」
「先ほどのを見ていたので大丈夫です」
「少しならレート上げてもいぜ」
「等倍で結構です。むしろ、下げてほしいくらい」
「……は?」
意図不明の発言に、ギャンフは顔をしかめて睨み、シスタはそれを微笑んで流した。
水面下で争っている間に、机上に金とカードが並び、ゲームが始まった。
二人は配られた五枚のカードをめくり、ギャンフは裏返しにして置き直し、シスタはニコリと笑った。
「レイズ、1000ドル」
「……」
いきなり札束を出して、かましてきたシスタに対し、ギャンフは――
「フォールド。引きが弱いぜ」
彼のカードは、何の役も揃っていないブタだった。
いきなり1000ドルも賭けてくるような相手の札とは戦えないと判断したのだろう。
その予想は正しく。
「あら。もう少しゆっくり吊り上げればよかったですね」
シスタが表向きにしたのは――キングのフォアカード。
ほぼ負けることのない、天下無双の役。
奇跡に近いカードの引きに、教室全体が湧き上がった。
「では」
涼しげな顔で賭け金を回収するシスタを、ギャンフは訝しむように見つめていた。
「どうしました? ゲームを降りますか」
「いや……やろう」
再びディーラーの王によって、五枚のカードが渡された。
お返しとばかりに、今度はギャンフが吹っかける。
「レイズ、1000ドル。カード交換一枚」
札束の山から掴み取った、十枚の100ドル札をドンッと置いた。
それに対し、シスタは――
「レイズ、1500ドル。交換はしません」
さらに強気に札束を積んだ。
「……コール」
少し考えた後、追加の金を積んだギャンフ。
果たしてその結果は――。
「3のペアと7のスリーカード、フルハウスだ」
「なかなか強いですね。ですが私は――もっと強い」
シスタの役は同じく3のペアと、ジャックのスリーカードのフルハウス。
役は同じだが、数字の差でシスタの勝利だ。
「危ない危ない」
口ではそう言いながらも、シスタは涼しげな表情で金を回収した。
みんな、薄々感じていた、「シスタ、運いいな」と。
だが、彼女はそんな域には収まらなかった。
「10のフォアカード」
「5とエースのツーペア。あとジョーカーのフルハウス」
「ストレート」
「フラッシュ」
「ストレートフラッシュ」
ギャンフに積まれた金が、みるみる減っていく。
先生の給料が大きいのか、まだ半分ほどは残っていたが、逆に言えば半分ほどはすでに奪われたことになる。
「順番的に、次はロイヤルストレートフラッシュですかね」
冗談めかしてめくったそのカードは――♤10、♤J、♤Q、♤K、♤Aの、ロイヤルストレートフラッシュだった。
しかも、ジョーカーを含んでいない。正真正銘のロイヤルストレートフラッシュである。
揃うことなどほぼあり得ない、最強のオンリーワン。
当然ギャンフが勝てるはずもなく賭け金を持っていかれ、遂に所持金は逆転した。
「いい日ですね。神に感謝しないと」
「……」
白々しく手を合わせ、神に祈るような動作をした。
「……誓って不正はしていないが、望むならディーラーを交代しようか?」
「いや、いい。シャッフルしてくれ、入念に」
珍しく困惑したように言った王の提案を断り、ゲームを続行する、ギャンフ。
王のシャッフル音が響く中、彼は――ある、事実確認をした。
「最初はイカサマをしてるんだと思っていたが……それ、自引きだな」
「はい。当然です」
「は!?」
観戦していた全員から、驚愕の声が漏れた。
自引きって……ストレートフラッシュでも組める確率は7万2000分の1、ロイヤルストレートフラッシュなんて、65万分の1だぞ。
それを何のイカサマもせず、偶然引いたとでも言うのか。
「私はズルいことなんて何一つしていませんよ。ただ一つ、ただ一つだけ、ある事をしたのです」
「その、あることって――」
「祈りました。神サウゼに」
仰々しくネックレスの前で手を合わせ、心から祈るような動作をした。
シスタ・ミス、宗教学校出身の狂信者。
マイナーな神を崇め続け、学校で幾度も改信を促されてきたが、それを全て奇跡で黙らせ、左遷するようにここに送り込まれた、異色の少女。
「さあ、皆さんも神を信じ、祈りを捧げましょう。そうすれば、これくらいの奇跡は簡単に起こせるようになります。今なら特別に、このネックレスを贈呈しましょう」
自分がつけているネックレスと同じものを、大量に掲げた。
思ったよりヤベー奴だったなぁ。
ドン引きしながらシスタを見ていると――一瞬、目が合ってしまった。
「ッ……」
その異常な雰囲気に気圧され、一瞬警戒するが、シスタはウィンクだけして視線を外した。
怖えぇ……色仕掛けか何かか?
「あら? 誰も入信しませんの?」
「そう言うのは、ゲームが終わった後にしてくれないか」
「失礼、待たせてしまいましたね」
いつの間にか配り終えていたカードを見ずに、宣言する。
「オールイン」
「おいおい、もうお前の方が所持金が多いんだぜ」
「知っています。なので、足りない場合はサウゼ教に入信してもらおうかと」
「いいだろう。一日三回礼拝してやるよ」
ギャンフもオールインに加えて、己の信仰まで賭けた。
この豪運相手に、どうやって抗うつもりなのか。
その答えはすぐに出た。
「では、賭けが成立したようなので、カードをオープンする」
王の言葉とともに、五枚のカードが公開された。
シスタのカードはまたもやロイヤルストレートフラッシュ。
確率という概念を黙らせ、最強のカード達を呼び寄せた。
それに対して、ギャンフのカードは――ロイヤルストレートフラッシュ。
全く同じカードを出し合う、トランプではありえない光景。
コレまで涼しい顔でゲームを続けていたシスタの表情が、若干曇った。
「コレは――どういうことでしょう」
「さあ? どっちかがイカサマでもしているんじゃないか」
神サウゼは創作の神です。実在しませ
???「何を言っているのでしょう。信仰が足りないようですね」




