MIKUBI
しらみつぶしに自転車を走らせ、日が沈み切った夜。
「ようやく、見つけた」
「主人殿……」
島の西北西の海岸。
一番日本に近い場所に、三首はいた。
身投げ……とかではなさそうだな。泳いで帰ろうか悩んでいたのだろう。
「……あんまり遅いから迎えに来たぞ。一緒に帰ろうぜ」
「了解でござる」
頷きはしたが、空返事。まだ悩んでいるようだ。
ここは――踏み込むしかない。
「何に悩んでいるのか、教えてくれないか」
「……」
「三首のことを、もっと知りたいんだ」
少し悩むような仕草をしてから、海の方を向いて座り、ポンポンと地面を叩いた。
座れということだろう。
指示通り三首のすぐ隣に座った。
夜の大海が、穏やかに波打つ。
心地よい雑音の中、三首は話し始めた。
「拙者は――昔は落ちこぼれだったのでござる」
「え――」
「意外でござろう。実は忍者を始めた頃は何をやっても失敗する、ダメ忍者でござった。よくつまずいて、電柱に頭をぶつけたものでござる」
懐かしむように遠くを眺めていた。
今では超人的な動きを見せる三首も、苦労した時代があったらしい。
努力をしてきたタイプの人だとは感じていたが、落ちこぼれとは思っていなかった。
「上手く身体を動かせなかったのは――家系の方に理由があって。忍者を始めて五年ほど経った時にそれが解消され、頂点学校に来れるくらいの忍者になったのでござる」
「そうだったのか」
家系の事情と聞いて、一瞬頭の犬耳に目がいったけれど、スルーすることにした。
別に全てを明らかにして欲しいわけではない。話したい事だけ話してくれたらいい。
「それで、拙者は――昔は苦労してて――」
「焦らなくていいよ。待ってる」
「……はい」
一拍置いてから、また言葉を紡いでいく。
「その頃は、バカにしてきた同期を見返すために努力していたというのが大きかったのでござるが、その目標はもう達成してしまい、拙者は――どこで聞いたのか、頭領になるという適当な目標を掲げて、忍者を続けていたのでござる。それで―――」
「苦労してきた理由が、分からなくなったのか」
「そんなところでござる。……拙者は、これからどうしたらいいのでござろう」
「三首の、好きなようにやったらいいんじゃないか」
俺の、無責任とも取れる返答に、目を見開いた三首。
「……それは、どういう?」
「言ったままだ。忍者を続けてもいいし、辞めてもいい」
「それだと、拙者が今までやってきたことは――」
「無駄じゃない。忍者の技術なんていくらでも使えるだろ。それに」
水平線を見るのをやめ、肩を掴んで三首を振り向かせ、まっすぐ目を見た。
「今までの軌跡があったから、俺たちと会えた」
「……」
「三首はそんなに現状が不満なのか?」
「……いえ」
「ならいいだろ。目標とかはゆっくり決めたらいい」
「それで、いいのでござろいか」
「いいんだよ、学生なんてそんなもんだ」
自然とニッと笑みが漏れた。
恥ずかしくなったのか、少し顔を赤くした三首は俺の手を振り解き、考える仕草をした。
まだ悩んではいるが、もう大丈夫だろう。
「じゃあ俺はそろそろ帰るけど、三首はどうする?」
「一緒に帰るでござる」
「よし。後ろに乗りな」
自転車に跨り、三首が背中に張り付いたことを確認してから、ペダルを踏んだ。
二人を乗せた自転車が、ヨロヨロと駆け出す。
舗装されていない、ガタガタな獣道だったが、転ぶことはなかった。




