表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/22

MIKUBI

 しらみつぶしに自転車を走らせ、日が沈み切った夜。


「ようやく、見つけた」

「主人殿……」


 島の西北西の海岸。

 一番日本に近い場所に、三首はいた。

 身投げ……とかではなさそうだな。泳いで帰ろうか悩んでいたのだろう。


「……あんまり遅いから迎えに来たぞ。一緒に帰ろうぜ」

「了解でござる」


 頷きはしたが、空返事。まだ悩んでいるようだ。

 ここは――踏み込むしかない。


「何に悩んでいるのか、教えてくれないか」

「……」

「三首のことを、もっと知りたいんだ」


 少し悩むような仕草をしてから、海の方を向いて座り、ポンポンと地面を叩いた。

 座れということだろう。

 指示通り三首のすぐ隣に座った。

 夜の大海が、穏やかに波打つ。

 心地よい雑音の中、三首は話し始めた。


「拙者は――昔は落ちこぼれだったのでござる」

「え――」

「意外でござろう。実は忍者を始めた頃は何をやっても失敗する、ダメ忍者でござった。よくつまずいて、電柱に頭をぶつけたものでござる」


 懐かしむように遠くを眺めていた。

 今では超人的な動きを見せる三首も、苦労した時代があったらしい。

 努力をしてきたタイプの人だとは感じていたが、落ちこぼれとは思っていなかった。


「上手く身体を動かせなかったのは――家系の方に理由があって。忍者を始めて五年ほど経った時にそれが解消され、頂点学校(ここ)に来れるくらいの忍者になったのでござる」

「そうだったのか」


 家系の事情と聞いて、一瞬頭の犬耳に目がいったけれど、スルーすることにした。

 別に全てを明らかにして欲しいわけではない。話したい事だけ話してくれたらいい。


「それで、拙者は――昔は苦労してて――」

「焦らなくていいよ。待ってる」

「……はい」


 一拍置いてから、また言葉を紡いでいく。


「その頃は、バカにしてきた同期を見返すために努力していたというのが大きかったのでござるが、その目標はもう達成してしまい、拙者は――どこで聞いたのか、頭領になるという適当な目標を掲げて、忍者を続けていたのでござる。それで―――」

「苦労してきた理由が、分からなくなったのか」

「そんなところでござる。……拙者は、これからどうしたらいいのでござろう」

「三首の、好きなようにやったらいいんじゃないか」


 俺の、無責任とも取れる返答に、目を見開いた三首。


「……それは、どういう?」

「言ったままだ。忍者を続けてもいいし、辞めてもいい」

「それだと、拙者が今までやってきたことは――」

「無駄じゃない。忍者の技術なんていくらでも使えるだろ。それに」


 水平線を見るのをやめ、肩を掴んで三首を振り向かせ、まっすぐ目を見た。


「今までの軌跡があったから、俺たちと会えた」

「……」

「三首はそんなに現状が不満なのか?」

「……いえ」

「ならいいだろ。目標とかはゆっくり決めたらいい」

「それで、いいのでござろいか」

「いいんだよ、学生なんてそんなもんだ」


 自然とニッと笑みが漏れた。

 恥ずかしくなったのか、少し顔を赤くした三首は俺の手を振り解き、考える仕草をした。

 まだ悩んではいるが、もう大丈夫だろう。


「じゃあ俺はそろそろ帰るけど、三首はどうする?」

「一緒に帰るでござる」

「よし。後ろに乗りな」


 自転車に跨り、三首が背中に張り付いたことを確認してから、ペダルを踏んだ。

 二人を乗せた自転車が、ヨロヨロと駆け出す。

 舗装されていない、ガタガタな獣道だったが、転ぶことはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ