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16/21

三首がいない日

 護衛の三首がどこかに行ってしまった。

 今日は学校を休もうかとも思ったが、悩んだ末に登校することにした。

 俺にとって、学校は楽しい場所であり、死地でもある。

 あそこで何度死にかけたか分からない。走馬灯がフルマラソンしている。

 けど、そのたびに三首が助けてくれた。

 そんな彼女がいない今、俺が学校に行くのは戦場を丸裸で横断するようなものだ。普通に死ねる。

 それでも、学校に行くのは――学校に行けば、三首がいる気がしたからだ。


 いつもより少し遅い時間に、教室に着いた。

 自然と視線が三首を探すが――彼女の姿はどこにもなかった。


「遅かったですね、誠一さん。三首さんは?」

「……朝急にいなくなったみたいだ。書き置きはあったから、事件とかでは無いと思う」

「珍しいですね……」

「何処に行ったか、心当たりとか無いか?」

「ありませんけど――何か遠く無いですか」


 無意識のうちに、静迦と距離をとっていたようだ。

 いつもの三倍ほど空いた空間を見て、静迦が近づいてくる。

 それと同時に、俺は後足で下がった。


「どうして距離を取るんですか!」

「だって三首いねーし! 物を盗られるのはもう慣れたけど、お前たまに臓器盗るじゃん!」

「アレは医浪さんだけです!」

「どうかしたんすか?」


 後ろから声がして振り返ると、触れるか触れないかという至近距離に、スペラがいた。


「うわッ!」


 慌てて距離を取ろうとし――そっちには静迦がいたことを思い出す。

 咄嗟に飛び跳ねて、机の上に乗ることでどうにかことなきを得た。


「ふぅ」

「何やってるんっすか?」

「――悪い、ちょっと過敏になってた。よく考えたらスペラはなんの問題も無かったわ」

「私は!?」

「問題しかないだろ」


 静迦は恨みがましい目を向けてきたが、普段の行い的に仕方ないと思う。

 無視して、事情を知らないスペラに状況を説明した。


「ってことで、このままだと俺は死ぬんだ」

「それはちょっとまずいっすね――僕でよければ、力になるっすよ」

「本当か!?」

「はい」


 微笑みながら頷いたスペラは、杖をクルンと一回転させて「バリア」とだけ言った。


「できたっすよ」

「もう!? あんま実感ないけど……」


 ほんのり何かに守られている感じはするが、それ以外は何も変化がない。

 試しにジャンプしたり、腕を回したりしていると、後ろからゴンっという音がし、振り返ると、静迦が赤くなった右手を押さえていた。


「いたいです……」

「何やってんだよ」

「試しにスマホでも盗ってみようとしたんですけど、透明な壁に阻まれました」

「ジャブ感覚で盗ろうとするな」


 どうやら、透明な壁が俺の周りに張られているらしい。

 スペラがそれをコンコンと叩きながら、説明してくれた。


「危険なものだけを弾くバリアっす。これで不意の事故くらいは防げるっすよ」

「おー! すげー!」

「使いやすい代わりに一日しか持たないんで……もしよければ、毎朝――?」

「何て?」


 セリフの後半からモジモジして、何と言ったか聞き取れなかった。

 聞きなおそうとした時、横から静枷に「見てください!」と声を掛けられた。


「どうしたんだよ」


 視線を移すと――静枷は誇らしげに俺の財布を掲げていた。


「本気出したら盗るの余裕でした」

「そっかぁ」

「もっと驚いて下さいよ!」

「だって防げると思ってなかったし」


 コイツの窃盗を防げる奴なんているのだろうか。

 一回、本気の静枷の窃盗を防いでみたい気持ちはある。

 できるとすれば、警察学校や、探偵学校などから来た人だろうか。

 そういや、うちのクラスに探偵学校から来た奴がいたような。今度話を聞いてみよう。


「で……何の話してたっけ」

「何でもないっす……。静枷さんに勝てるように努力するっす」


 スペラとしてはバリアを抜けられたのは結構ショックだったのか、トボトボと自分の席に戻っていってしまった。

 まあ、ひと悶着はあったが、俺はしっかりとバリアに包まれている。

 これで、三首がいなくても――大丈夫だろう。


「大丈夫大丈夫。スペラのバリアがあれば無敵だって」

「フラグですか?」

「そんな、スペラことないない」




 本当に大丈夫だった。

 なんかダイナマイトが爆発したり、猛毒の霧に包まれたり、数十メートルの高さから自由落下したりしたけど、全部バリアが守ってくれた。

 それでいて、普通に動ける。

 一切の不便なく、昼休みまでいつも通り過ごせた。


「でも――なんか違うんだよなあ」

「そうですか? イテ」


 また静迦が無意識に手を伸ばして、バリアに弾かれた。

 今日だけでもう何回やったかわからない。ただ、静迦の手は真っ赤に腫れている。


 だが、これはいいことかもしれない。

 こうしてバリアに手をぶつけ続ければ、静迦も学習して、無意識のスリは減るだろう。

 それで――それで、いいのか。


『いいでござるよ』


 いないはずの三首の声が聞こえ――すぐにそれが幻聴であったと悟る。

 まだ出会って一ヶ月弱しか経っていないのに、もう彼女は俺の中に溶け込んでいた。


「三首が足りない」

「ですね」

「あいつ今、何処にいるんだろう」

「さあ。三首さん、あまり自分のことを話しませんでしたし、あの人携帯持ってませんからね」

「……そういやそうだったな」


 携帯を持っていないと聞いた途端に、背筋に悪寒が走った。

 もう二度と、三首と会えないかもしれない。

 居ても立っても居られなくなって、立ち上がった。


「ちょっと俺、体調悪いから早退するわ」

「そうですか。なら、コレを」


 三首が投げたのは、自転車の鍵だった。


「あげます。ピンクの目立つやつです」

「いいのか?」

「いいですよ、沢山あるので」


 ……最後の言葉は聞かなかったことにして、俺は駆け出した。

 階段を降り、自転車置き場へ。ピンク色の自転車に片っ端から鍵を突っ込み、鍵が空いた自転車に乗って、ペダルを漕いだ。


 コレは俺の希望かもしれないが――まだ、三首はこの島にいる気がした。

 それだけを信じて、手当たり次第に島中を駆け回り、三首を探す。


 自室、コンビニ、スーパー、パチンコ、カラオケ、裏山、図書館、病院、喫茶店、飯屋、空港。

 しらみつぶしに自転車を走らせ、日が沈み切った夜。


「ようやく、見つけた」


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