三首
学校が閉まるチャイムを背に、俺と静枷は帰路についた。
ギターを弾いていた感覚は先輩のマッサージのせいで消し飛んだが、耳には音が残っている。
「楽しかったな」
「そうですね。三首さんもしたら良かったのに」
「……あいつ、今どこにいるんだ」
隣にいるのが、心臓を盗ったこともある危険人物だから、俺を守れるところにはいると思うけれど、詳しい場所は分からない。
まあ、夕飯の時間には帰って来るだろう。
「では誠一さん、また明日」
「待て、スマホが無いぞ」
「……テヘッ♪」
静枷の袖から、俺のスマホと――ネジやボルトなど、機械の部品のような物がポロポロと出てきた。
「これ……キーボードの部品だろ! なに器用に盗ってきてんだ!?」
「れ、劣化してる部品です。交換するために無意識に抜いてたんです」
「本当か? ……まあいいや、明日返しに行くぞ」
「はい」
スマホをポケットに、部品をバッグに入れ、俺は寮の自室に帰った。
「ただいま」
「お帰りでござる」
「なーご」
三首は先に寮に戻っていたらしい。
最近うちにやってきた、化け猫の猫丸(三首命名)にご飯をあげていた。
なお、猫丸は三首を無視して、俺の方に歩み寄って来ている。
三首からは結構歩み寄っているが、ことごとく空振に終わっていた。
犬と猫ということで、避けられているのかもしれない。
俺にエサをねだる猫丸を寂しげに見つめていた。
「軽音はどうだったでござるか」
「面白かったよ。先輩も優しかったし――三首も来ればよかったのに」
「それは、遠慮しておくでござるよ」
「どうして?」
「拙者には任務があるので……他の人の迷惑になりたくないのでござるよ」
「そっか――」
みんなが部活に打ち込む中、自分は忍者の仕事があって集中できない。
そんなこと気にしなくていいと思うが、三首としては気になるのだろう。
「忍者って結構ブラックだよな……。というか、現代の忍者ってどんな感じなの?」
「それを知ったら里から刺客が送られることになるでござるよ」
「やっぱいいや!」
結構興味あったのに……。
ガッカリしたのが伝わったのか、触りだけ教えてくれた。
「まあ、ナ〇トの里みたいなものでござる」
「へー、やっぱあんな感じなんだ。そういえば、三首は火影になりたいんだっけ?」
「火影ではなく頭領でござるよ」
「頭領か……やっぱ強いの?」
「もちろん強いでござる。基本的に、現役最強の忍者が頭領になるので」
「うわー。……一回会ってみたいなぁ」
「……」
雑談しながら料理していたのに、急に三首が黙ってしまった。
何か作業でもしているのかと、チラリと見てみると、座ったまま寝ているかのように俯いていた。
「三首、もう夕飯できるぞ。準備手伝ってくれないか?」
「……」
「三首?」
「……申し訳ない、ちょっと考え事をしていたでござる」
ハッとしたように立ち上がって、食器の準備を始めた。しかし、どうも心ここに非ずといった様子だ。
「どうしたんだ?」
三首にしては珍しく、かなり思い悩んでいるように見える。
食器棚に映る自分の顔を見ながら、三首は悩みを口にした。
「拙者は――どうして頭領になりたかったのでござろうか」
「え……現頭領がカッコよくて憧れたとかじゃないの?」
「いえ、実は頭領にはほとんど会ったことが無くて……」
「となると――うぅん?」
頭領に憧れた理由?
DOUSITE?
せっかく相談してくれたから、何か言いたいのに、何も思いつかない。
「それは――こう――」
「拙者は、どうして忍者になって――どうして忍者をしているのでござろう」
「忍者の里に生まれたからだろ。と、とりあえず食べようぜ」
「そう、でござるね」
中々難しい悩みで、思わず話を逸らしてしまった。
食べてる間も、気を紛らわすために別の話題を振り続けていたが、三首はずっと浮かない顔をしていた。
翌朝。
「三首ー、もう出る時間だぞー!」
部屋の壁をドンドンと叩いてみるも、反応がない。
おかしい。
三首が俺より遅く起きることなんて、これまで一度も無かった。
昨日のこともあり、嫌な予感がした俺は――ドアノブに、手をかけた。
鍵は掛かっていない。開いている。
「み、三首ー、入るぞー?」
最後に声かけをして、部屋に入った。
初めて入る、同居人の部屋。
この寮に来てから数週間経ち、ある程度雑貨が増えた俺の部屋と違い、三首の部屋には、最初からあるベッドと勉強机しか無かった。
そして、ベッドの上には一通の書き置きが。
『誠に勝手ながら、休暇をいただくでござる』




