エクスプロージョンにしたかった
全員カレーをペロリとたいらげ、後片付けまで終えて……暇な時間になった。
今日は、この山頂にテントを張って一泊する。
現在、夕飯を食べ終わって、約二十時。精神的に疲れたので、早めに寝るとしても、あと二時間は空白の時間がある。
ゴミ出しを終えて、みんながいた場所に戻ると、スペラしかいなかった。
「王と帽糸は?」
「森に探検に行くって言ってたっす」
「そっか。誘ってくれれば……行かなかったのに」
「行かないんっすか」
「だって怖いじゃん、夜の森。スペラは、何してんの?」
「天体観測っす。星が綺麗っすよ」
空を見上げてみると、確かに星が綺麗だった。
外灯がないだけなのに、町中とは比べ物にならないくらい、星がくっきりと見える。
「んーと、北極星は……」
「アレっす!」
スペラ指さした北の空には、ひと際強く光る一番星、北極星があった。
「ちょっと下にあるのが北斗七星で、そこから反時計周りに一等星が並んでいるのが、春の大曲線っす!」
「ほええ」
「あ、すみません、ペラペラと……」
「? 俺としては聞いていて面白いんだけど」
「そうっすか?」
「星は有識者と見た方が絶対面白いって。もっと聞かせてよ」
「……分かったっす! まず、北斗七星は大熊座に含まれていて――」
スペラは、楽しそうに星の解説をしてくれた。
分かりやすいように、指をさして、光りが強い星から順に説明を入れていく。
由来やら昔話やらを絡めて話してくれているお陰で、全然飽きない。
「と、まあ、今見える範囲だとこんな感じっすね」
「ありがとう、すげー面白かった。プラネタリウム勤務できるぞ」
「そうっすか?」
「ああ。そうだ、今度行こうぜ、プラネタリウム」
「いいっすね! ぜひ行きましょう」
スペラがセリフを言ってから、少し沈黙の時間ができてしまった。
ずっと解説してくれていた分、今度はこっちから話題提供をしたいのだが――
「そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「何っすか?」
「スペラって、どうしてそんなに魔法を極められているんだ?」
この学校にきて数週間。同じ生徒を見てきて、それらが二つのタイプに分けられることに気づいた。
完全に才能に振り切っているタイプと、ある程度の才能と努力で極みまで来たタイプだ。
前者の代表といえば、静枷だろう。ただ才能だけで、忍者にバレずに下着を盗めるくらいの腕になっている。
そして、ここまで見てきて、スペラは後者側の人間だと俺は感じた。
「どうして、そんなに努力ができるんだ?」
「……ボクには、目標があるからっすよ」
「目標って……何か聞いていいか?」
「ちょっと恥ずかしいんっすけど……最高の魔法を作ることっす」
「最高の魔法?」
疑問符を浮かべていると、スペラは少し恥ずかしそうに語ってくれた。
「最初にボクが魔法を知った時、感動したんっすよ。何でもできたんです。火も水も土も、何でも出せるし、念力みたいなこともできたし、物を破壊することも、何でもできたんっす。
でも、物足りなかった」
今まで、一歩引いたというか、どこかオドオドしていた雰囲気が消え、野心のようなものが露出してきた。
「現代魔法だと、魔法が持つ潜在能力を全然発揮できていない気がしているんです。けど、魔法学校のみんなは、小さなこまごまとした魔法や、破壊力のみを追及した魔法ばかりを研究している。そうじゃ、ないんだ。僕は、魔法の全てを余すことなく使った、究極の魔法を生み出したい。
……大層なことは言ったけれど、まだその輪郭も決まってない。なので、インスピレーションを得るため、ここに来たんっす」
「……そうか」
「すみません、偉そうに語っちゃって」
「いや、熱い思いが伝わってきてよかったよ。教えてくれてありがとう」
熱い思いと目標があっての努力だった。
俺に、そんなものは……。
「まあ、同じ魔法使い達からは、いつもバカにされてるっすけどね。子供の夢だって」
「凄い事じゃん、子供の夢を、まだ持ち続けてるなんて」
「え?」
「普通なら諦めてしまうような子供の夢を、本気でずっと追い続けるなんて、凄い事だろ。誰にでもできることじゃない」
「……そんなこと、初めて言われたっすよ」
涙声。驚いてスペラの顔を見ようとした時、空が光った。
「……なんか、大きい星ない?」
「そう、っすね。なんでしょう?」
「なんか段々大きくなってんだけど。ズームしてるよズーム」
「ああ、隕石っすね」
「……ヤバくね?」
天を埋め尽くしてしまう巨大な隕石。こんなものが直撃したら、俺達は当然即死。
それどころか、恐竜が絶滅した時のように、氷河期に突入などというのもあり得るのではないか。
「あー。やりたいことやっとけばよかった」
「やりたいこと?」
「ゲームと……バンドとかしたかった!」
「アハハ。じゃあ、まだ死ねないっすね」
スペラは、杖をついて立ち上がった。
そして、杖を掲げて呪文を詠唱する。
「薪をくべろ、我は全てを燃やす者。拳を掲げろ、我は全てを破る者。煤と灰の花墨。深紅の星座。練り合い、爛れ、混合しろ。昏き深淵に光を、宙の太陽に闇を。来たれ、終焉」
杖の先が恒星のように輝き、集約された力が、放たれる。
「竜星爆破!」
音は無かった。
スペラが杖を振るった瞬間、隕石が内側からはじけ飛び、爆散した。
小さな隕石の欠片が雨のように降り注ぐ、世紀末のような光景。ただ――綺麗だった。
「大気圏を突破できる破片は無いっすね。お仕事完了っす」
「……地球の危機、救っちゃったよ」
「魔法界ではこれくらいよくあることっすよ」
「マジ?」
「そうだ、記念に――」
スペラが杖を振るうと、隕石の欠片の一つが大きく軌道を変え、彼の手に乗った。
「あげるっす」
「ありがとう」
「加工しましょうか? ネックレスとか……指輪とか」
「このまま家に飾るよ。この方が隕石っぽいじゃん」
「そうっすか」
握った隕石の破片は、爆発の余波で少し暖かかった。




