第十章 アキラ〜病院にて〜
加納と長谷が駆け足で病院の裏口に到着すると、そこには救急車が一台停まっていた。
救急隊員たちが後部扉を開け、ストレッチャーに横たわるアキラを運び出す。
ストレッチャーにかけられた薄い布の下、アキラは泥と血にまみれ、意識があるのかどうかもわからない。
ただ、かすかに胸が上下しているのが見えた。
「容態は!?」と加納が駆け寄る。
若い医師が素早く答えた。
「外傷は多数ありますが、致命傷は確認されていません。
ただ、強いショック状態と栄養失調、脱水。
何より、精神的なダメージが大きい。
こちらからの問いかけには反応せず、ずっと虚空を見つめています」
「喋れる状態じゃ……?」
「現時点では無理でしょう。
意識はあるのに、完全に遮断されているような状態です」
加納と長谷が顔を見合わせる。
「見つけた時の状況を詳しく聞かせてくれ」と加納が救急隊員の一人に詰め寄った。
隊員は緊張した面持ちで答える。
「本部からの指示で、地形に沿って北西方向を捜索していたところ、
杉の根元、倒木の影に潜り込むようにして横たわっていました。
血は乾いていて、そばにあった携帯は壊れていました。
目は開いていましたが、何を見ているのか……わからない感じでした」
長谷が低く呟く。
「一体、樹海の中で何を見たんだ……」
医師が口を挟む。
「しばらくは安静にさせますが、状態が落ち着けば、
精神科医の診察を受けさせる予定です。
それで少しでも何か思い出せれば……」
加納は黙って頷き、処置室の奥に運ばれていくアキラの背中を見つめていた。




