第七章 捜査開始
濃い霧が、朝を押し返すように樹海を包んでいた。
捜索隊の足元が、落ち葉を吸い込むように静かに沈む。
加納と長谷はリョウから聞いたメモ帳の落ちていた地点、そして逃走した三人の足取りを元に、周囲を丁寧に調べていた。
「……GPS反応、ここで途切れてますね。携帯が落ちてたのも、このあたり」
長谷が地図アプリと照合しながら呟く。
加納は無言で、落ち葉を指でかき分けていた。
微かな踏み跡、草の倒れた方向――だが、それ以上の“決定的な何か”は見つからない。
「気配が、ないな」
加納が立ち上がり、周囲を見渡す。
「昨日はもっと……こう、空気が違ってたんですけどね」
長谷の言葉に加納はうなずいた。
昨日感じた不穏な空気は、今は嘘のように静まり返っている。
警察犬も反応を示さず、ドローンによる上空からの確認も空振りだった。
遺体の発見現場から、他の3人の手がかりは一切出てこない。
「……“喰われちまった”ような消え方だな」
加納がぽつりと呟いたその声に、長谷が小さく反応する。
「さっき言ってた“J”って話。詳しく聞かせてくれ」
「ああ、あれ……正直、信じてなかったんですけど」
長谷はスマホを取り出し、検索履歴からいくつかのサイトを表示する。
「ネットの掲示板とか都市伝説系の記事で、数年前から出てるんです。
“Jと呼ばれる男が樹海に現れる”って。
誰も顔を見たことがない。でも、出会ったら“帰ってこられない”って言われてる」
加納の視線が、スマホの画面に落ちる。
黒背景に赤い文字で綴られた、どこかふざけた噂話のような文章。
しかし――リョウの証言と、妙に符号する。
『足音』『声』『帰れない』
「……どこの誰が書いたかわからん怪談話だが、目の前の現実が、それに寄ってきてるのは確かだな」
「調べてみますか? この“J”の話、もう少し」
加納はしばらく黙り、そしてポケットからタバコの箱を取り出した。
一本咥え、火をつける。
「頼む。可能性がゼロじゃないなら、徹底的に洗う」
煙が空へと昇っていく。
その先に、誰かの視線があるような錯覚を加納は覚えた。




