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第六章 帰路

雨上がりの夜道。

パトカーではない、地味な捜査車両がヘッドライトを揺らしながら山道を下っていた。


運転席には若い刑事、長谷はせ

助手席に加納が乗り、窓の外を静かに眺めていた。


「……にしても、やっぱ妙ですよね、今回」


長谷が口を開いた。軽口のようで、どこか探るような声音。


「“かえれない”って、耳元で囁かれたって……そんな話、普通の行方不明事件じゃまず聞かない」


加納は返事をせず、しばらく黙っていた。


やがて、ぽつりと呟く。


「ああいう“感覚の話”は、話半分で聞く。だが――全てを否定はしない」


「幽霊とか信じる口ですか?」


「信じてるわけじゃない。ただ、理解できない現象ってのは、確かにある。

説明のつかない状況に遭遇した証言ってのは、なぜか似通ってるもんなんだ」


長谷は片手でハンドルを持ち替え、苦笑した。


「……俺、正直ゾッとしましたよ。あのリョウって子、ただ怯えてるって感じじゃなかった。

なにか、こう……本当に見てしまった人間の目をしてました」


加納は目を閉じて、軽く首を回した。


「今回の件は、ただの悪ふざけで迷った結果、誰かが事故に遭った――そう言い切るには、材料が足りん」


「警察犬が反応しなかったことも……」


「あれは不可解だな。足跡も曖昧、残留臭も薄い。しかも遺体の発見場所が……あり得ない高さだった」


長谷がちらりと助手席を見る。


「加納さん。正直どう思います? あの男――“J”って呼ばれてる奴の噂。

若者たちの間じゃネットで結構話題らしいですよ。『富士樹海に出る奴』って」


加納は鼻で笑った。


「名前がついた時点で“現実”になる。そういうもんだ。

誰かがふざけて言い出した話が、形を持つ。……ただの都市伝説ってわけでもない」


外ではまた、小雨がパラつき始めた。


加納は窓を見ながら、呟いた。


「“J”が実在するかどうかはどうでもいい。

問題は、そこに“何があったか”だ。現実として、一人は死んだ。残りも戻っていない。

幻でも噂でもなく、これは“事件”だ。――俺たちは、それを捜すだけだ」


長谷がゆっくりとアクセルを踏む。

ヘッドライトが、湿った木々を照らしながら坂道を登っていった。

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