表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

第五章 記録2

リョウは言葉を選ぶように、ひと呼吸置いた。


「足音が聞こえてきました。後ろから、誰かが……確実に、追ってきてる感じでした。

最初は枝が揺れてる音かと思ったんです。でも違いました。明らかに“足音”でした」


「その足音は、あなた以外の4人のものでは?」


「違います。全員の位置は視界に入ってたんです。

後ろにいたのは、誰でもない“何か”でした」


加納は少しだけ身を乗り出した。


「その時、何か“声”が聞こえたと言いましたね?」


リョウはうなずき、思い出すように目を閉じた。


「……はい。小さな、囁き声みたいな。

男か女かもわからない……低くて、ぼそぼそした声です」


「何を言っているように聞こえましたか?」


リョウは眉を寄せた。


「意味のある言葉じゃないような……でも、はっきり聞き取れた言葉が、一つだけあります」


加納がペンを止める。


「なんと?」


「『かえれない』……です」


病室に、沈黙が落ちた。


「一度だけじゃありません。……何度も、繰り返してました。

『かえれない』『かえれない』って……」


リョウの指先が、布団の上で震えた。


「あの時、逃げ出したくてたまらなかった。でも、身体が動かなくて。

目も、後ろを向けなくて――でも、声だけは、ずっと、耳元で……」


加納は無言でうなずき、ゆっくりとICレコーダーを止めた。


「リョウさん、ありがとうございます。これ以上は無理をさせたくありません。

今日はここまでにしましょう」


リョウは小さく頭を下げた。


「……何が起きたんでしょうか。あの中で」


加納は立ち上がりながら、淡く答えた。


「それをこれから、我々が突き止めます。

……あなたの見たものが、幻だったのか、それとも――現実だったのかも含めて」


加納が病室を出たあと、リョウは一人、静かな闇に包まれた。


ただ耳の奥に、あの声だけが、まだ残っていた。


『かえれない』


どこまでも、冷たく、乾いた声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ