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後ろから輩が現れる

 「先輩っ! 何がどう探れないんですか?」


 ダラダラと歩いていると後ろからガタッと方を捕まれ、耳元でそう囁かれる。

 叫びたくなる思いを抑えた。

 マジで通り魔に刺されるのかと思うぐらい突発的すぎて脳みそがしっかりと処理をできていない。


 「どんな顔ですかそれ」

 「いや、夏川が突然目の前に現れてどう反応すれば良いのか困ってるだけ」

 「そうですか。そうですか。なるほど。とりあえず、ご丁寧にご説明ありがとうございます」


 元凶である夏川はどこか他人事な雰囲気を醸し出す。

 そもそもなんでコイツここに居るんだよ。

 夏川の家具体的にどの辺にあるのかなんて知らないけれど少なくともこっち側じゃないだろ。


 「なんで夏川がここに居るんだよ。お前の家どっちかって言うと俺の家側だろ」

 「それはお互い様じゃないですか? なんで先輩がこっち側にいるんです?」

 「麗の家行ってたからだよ」

 「へー、そうですか……。ふーん」

 「ふーんってなんだよ。ふーんって。というか、視線!」


 夏川の視線は俺の顔の位置から徐々に下っていき、腹の当たり、太ももの当たりでピタリと止める。


 「なんですかー? どうしたんです?」

 「どこ見てるんだよ」

 「いやぁ、福城先輩に火を吹いたのかなって」


 夏川はなんの躊躇もなくそんなことを口にする。

 男子だったら間違いなく下ネタなのだろうが、コイツは腐っても乙女チックな女の子だ。

 当たり前のように下ネタを漏らすとは思えない。

 考えるような視線を送ると夏川は声を出さずにただ口角を上げる。


 「その微笑み怖いな。何考えてんだ」

 「なーんにも考えてないですよ。そうですね……強いていえば先輩にそんな度胸あるとは思えないなーってとこですね。だって今私の下ネタにもツッコミ入れられなかったじゃないですかー。女子だって下ネタぐらい言いますよ」


 知っていたけど知らなかった現実を目の当たりにさせられる。

 まぁ、ね。

 下ネタを言うことぐらい知ってたさ。

 知ってたけれどやっぱり童貞な俺は女の子にもうちょっと純白な気持ちを抱いちゃってるわけよ。

 というか、夏川のやつ「何も考えてない」って前置きしてたくせしてかなり考えてやがるな。

 本当、これでもかと言うぐらい好き放題されている。


 「先輩。それで話戻りますけど」

 「話戻るって……」

 「でですねー」

 「あ、夏川何しにここ来たんだ?」

 「うーん。先輩って3歩歩いても忘れないんですね」

 「鶏じゃねぇーからな」

 「別に大した理由じゃないですよ。小学校の時の友達と……、まぁ遊んでたって感じですかね」


 夏川は何か突っかかることがあるのか言葉を迷ってそこに辿り着く。

 まぁ、どうせ遊んでいる途中に喧嘩したとかそんな所だろう。

 その喧嘩だって原因は夏川であろう。

 コイツのことだ。

 どうせ煽って喧嘩に発展したとか……、うわぁ目に見えるなぁ。


 「先輩。今すっごく失礼なこと考えてません? いや、考えてますよね」

 「ないない」

 「本当ですかー? 怪しいですねー」


 夏川は怪訝そうにこちらを見つめる。

 信用されていないのか、冗談のつもりなのか。

 どちらにせよ心が休まらないことには変わりない。


 「私の理由も話したところですし、話戻しますね」

 「やっと戻ったな」

 「はぁ……。先輩、他人事ですね。先輩のせいで脱線してるんですからね」

 「俺のせいかよ」

 「ほら、また脱線しようとしてるじゃないですかー。こんなんだからもう駅に着いちゃうんですよ」


 ダラダラ夏川と歩きながら喋っていると気付けば合流した地点から1番近い十姫女駅へと到着してしまう。


 「まぁ、良いよ。はいはい、俺が悪かったです。俺のせいでした」


 話が進まないというのは俺も頷けるのでサッサと俺が悪いということにしておく。

 本当に自分が悪いと思っている時にはあまり謝りたいという気持ちが湧いてこないのだが、こうやって自分は一切悪くないと心から思っている時には素直に謝罪の言葉が出てくる。

 代償と言って良いのか分からないが謝罪の言葉は1ミリたりとも篭っていない。

 あくまでも言葉という殻だけである。


 「なんですかね……。物凄く私が負けた気がしてるんですけど……」

 「注文の多いやつだな」

 「むぅ。先輩も一言多いんですよ」


 そんな文句を垂らしたがらも夏川は咳払いをひとつ挟む。


 「先輩さっき何かを『探る』とか『探れない』とかなんかそんなこと言ってませんでした? もうそこそこ時間経っちゃったんで鮮明には覚えてないんですけど」

 「あー、うん。そうだな。言ってたわ」

 「何をなんです?」


 夏川は興味津々に顔を覗かせてくる。

 話さないとここから退かないぞという確たる圧すら感じてしまう。


 「うーん、まぁな。色々あったんだよ。色々。それでな、俺って麗と付き合ってるのに麗のこと具体的に何も知らないなって。それこそ、可愛いとか実は甘えたがりとかそのぐらいしか知らないんだよね」

 「はー。つまり、先輩は福城先輩のことを知ってるけれど深いことは知らないから知りたいってことですか?」

 「俺そこまで言ってないんだけどな。まぁ、間違いじゃない」

 「流石にそういことなのかなってことぐらいは分かりますよ。馬鹿じゃないんで」


 今軽く罵られたような気がしたのは気のせいだろうか。

 うん、深読みしすぎなだけだよね。

 そうだよね。


 「で、先輩は知りたいんですよね?」

 「そうだな」

 「じゃあ聞けば良いじゃないですか。それか先輩が知りたいこと今ここで私が電話して聞いてあげましょうか?」


 夏川はそんなことを簡単に言うがそういうわけにはいかない。


 「ちょっ、待て待て」

 「なんですか?」

 「まだ心の準備とか色々出来てないから」

 「なんですか? そんなもの要らないですよね。どうせ早かれ遅かれ聞くことになるんでふよ?」


 夏川の主張はご最もだ。

 だが、俺は麗を自殺にまで追い込んだ理由を聞くという最大のミッションが課せられている。

 どれだけ重たい話なのか俺には理解出来ていないが少なくとも軽くはないであろうその重さに耐えられる程の覚悟はない。


 ウジウジしていると夏川は面倒くさそうな視線を1度送り、ため息を吐く。


 「先輩って本当に度胸あるんだか無いんだか分からないですよね。仕方ないので、私が練習相手になってあげますよ」

 「練習相手?」

 「はい。練習相手です。相手の深いことを聞き出す練習ですよ。ってことでそこのファミレスにゴーです」

 「ファミレス……って、またこのチェーン店かよ」

 「良いじゃないですか。美味しいですしー」


 夏川がそう言うならまぁ良いのだろうと思いながら俺たちは目の前に見えた某イタリアンチェーン店へと足を運んだのだった。

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