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ミャーニェさんは頭を振る。「その時の試験官の顔を、あんたに見せてあげたいわ!わたし、自分が毛虫にでもなったのかと思っちゃった」
「まあ、ミャーニェ。ど忘れは誰にだってあるわよ。次頑張ればいいじゃない」
「そうだけど……ああ、あれさえなけりゃね。一時間前の自分に云えたらどれだけいいだろう!燕息は熱属性の魔法だって!」
ミャーニェさんはそう云って、両手で顔を覆って走って行ってしまった。燕息は熱魔法。覚えておこう。
東の空が白みはじめる。さっきの炊き込みご飯と豚汁はくいはぐれたし、おなかがすいてきた。そんな時は収納空間だ。食べものは沢山はいっている。
「ふたりとも、おなかすかない?」
「あ……少し」
「はらへったっす」
「じゃ、これ食べよう。はい、どうぞ」
サンドウィッチの包みを差し出した。
牛乳とお塩をいれてバターで焼いたオムレツと、ドライトマト・アボカドのスライスを、発酵させたパンをうすく切ったものにはさんだ。何日か前にお弁当でつくったものを、まかない食べ放題を盾にちょろまかしたのだ。
ふたりは嬉しそうにサンドウィッチをうけとって、短くお祈りするとぱくついた。俺も食べる。おいしい。バターは強い。
あっという間にみっつ食べてしまった。これくらいで我慢しよう。朝ご飯がはいらなくなる。「おかわり、要る?」
「いえ。朝ご飯食べられなくなっちゃう」
「俺もやめとく」
列が動いた。と、ばらける。鐘がやんだ。
「あーあ、終わっちゃった」
「締め切りかあー」
「ついてねえや」
口々にぼやいて、寝間着にローブのひと達は踵を返す。
力が抜けた。まただ。間に合わなかった。
でも……まあ、前よりはいいかな。列には並べた。でも、今度は間に合うといいな。
アーレンセさんとサッディレくんは、心配そうな目でこちらを見ている。俺は微笑んだ。「今度は遅れないように、馬車を用意しておこうか?」
ふたりともくすっと笑った。
とぼとぼと四月の雨亭へ戻る。
ミャーニェさんは、傭兵らしい。アーレンセさんと一緒に護衛の仕事をしていたこともあるんだって。それにしても云い難い名前で、俺は猛烈に舌を嚙んだ。
「みゃな、まっにえ。みゃーにえ、さんは、どうしてほうこうを?」
「彼女、お父さんが以前、補助の教員をしていたそうなんです。それでずっと入山を目指していたんですけれど、年齢制限が……」
ああ、二十歳過ぎたらだめなんだったな。
「ミャーニェは氾濫士で、巡らせる者でもあって、傭兵として優秀なんです。それに、めげない子なんですよ」
「巧く行くといいね」
「マオ、競ってる相手なのに、応援するの?」
「うん?だって、みゃーねさんがうからなかったら俺がうかるって訳じゃないでしょ?」
俺以外が全員落ちても俺がうかる保証はない。逆に全員うかることだってあるかもしれない。なら、応援しとく。そのほうが俺の気分がいいから。




