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列はゆっくりすすんでいく。どういう訳か、行列なのに、皆さんゆったり距離をとって立っていた。
俺がつい、距離を詰めようとすると、サッディレくんに腕を引っ張られ、停まらされた。「マオ、だめ」
「え?」
「そうですよ、マオさん」
きょとんとする。ふたりは顔を見合わせ、サッディレくんが俺の腕から手を離した。
「そっか」
「マオさん、入山試験をうけたことないんですよね」
「うん……なにか関係あるの?」
ふたりの説明によると、御山へ試験をうけに行く場合、行列はゆったり距離をとるものらしい。昔は前後のひとにくっつくくらいに距離を詰めていたが、ある時不埒者が周囲のひとに精神錯乱の魔法をかけて、そのひと達が試験をうけられないようにした。
勿論そんな卑怯なことをしたひとは試験をうけられなかった。だがその事件のあとから、試験で巧くいかなかった受験生が、誰かに細工された、と訴えることが急増した。その所為で自分は実力を出せなかっただけだから、もう一度機会をくれ、と。
門の傍なら試験官がいて目を光らせているが、通りまでは居ない。なかには本当に妨害工作をされた者も居たが、大概は嘘だった。というわけで、慣例として、行列ではゆったり距離をとる。実際妨害されたら損だし、疑われるのもいやだしね。
リッターくんが精神錯乱の魔法をつかっていたし、妨害はありえない話ではない。多分状態異常だろうから、俺には効かないんだろうけど、気を付けておこう。もしかしたら血迷ったひとに刺されたりするかもしれないしな。
だいぶ山に近付いた。傭兵協会の門が目にはいる。サッディレくんはじれったそうだ。「全然すすまないじゃん」
「個人での面談をしてるのかもね」
「時間かかるよなああれ」
ふたりとも入山を目指していたんだっけ。ジーナちゃんの話では、筆記試験があったり、実技試験があったり、大変みたいだった。奉公の試験はどうなんだろう。お料理、だったら、そこそこ自信はある。お菓子づくりとか。
下働きなんだし、やっぱり家政一般かなあ?片付けには自信ないぞ。
一気に列がすすんだ。俺達も小走りに前へ行く。前方から二十人くらいが悄然として歩いてきた。試験に落ちたひと達のようだ。アーレンセさんがあっと声をあげる。「ミャーニェじゃない」
「アーレンセ」
寝間着らしいドレスにローブを羽織った女性がたちどまった。アーレンセさんの知り合いみたいだ。
「アーレンセも?」
「ううん。こちらの護衛よ」
「そう……あんたを雇えるひとなら有望ね。わたしったら、ばかみたいな失敗をしちゃったの。燕息がどの属性の魔法か、答えられなかったのよ。はずかしい」
やばい、魔法についての問題なんて出されても答えられんぞ。燕息ってなに属性なの?




