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泡をくって表へ飛び出したのは、俺だけではない。明らかに寝間着で酷い寝癖のついた青年や、ローブの片袖にしか腕を通していない女性など、中央辺りに沢山歩いている。全員眠っていたところを叩き起こされたみたいで、足どりは重く、ゾンビみたいだった。
俺も似たようなものだ。目は完全に覚めていたが、だとしても夜である。体が重いし、不意に眠気が襲ってくる。
中央で西に折れた。西の通りには、もっと大勢ひとが集まっている。こんなに競争相手が居るのか。魔法をつかってみせることもできない俺に、勝ち目はあるのだろうか。
茫然として立ち尽くした俺の肩を、誰かが叩いた。
「マオさん」
アーレンセさんだ。サッディレくんも居る。「マオ、夜にひとりで出て行っちゃだめっすよ」
「あ……えっと、下働きの募集がかかって」
「解ってます。わたしとサッディレくんで警護しますから」
アーレンセさんが西へ向かって歩き出した。「追いつけてよかった」
「マオ、あし遅いね」
サッディレくんにせなかを押され、俺も歩く。
「ふたりとも、寝てたんじゃないの?」
「わたし、たまたま目が覚めて、鐘の音がきこえたから、マオさんが心配でサッディレくんを起こしたんです」
「下に降りてみたら、あの五人が大慌てでさ。だから、俺達で追うからだいじょぶって、出てきたっす」
肩越しに見る。サッディレくんは髪をあんでおらず、飾りもつけていない。しかも、ローブの下は寝間着らしかった。前を向けば、アーレンセさんもどうやら寝間着にローブらしい。
「えっと」目をしばたたく。「ごめん。ありがと」
「いいんですよ」
「そうそう。セロベルさんからも云われてるし」
「え、なにを?」
アーレンセさんがちらっとこちらを向いた。
「マオさんが、奉公したがってるって。だから、自分が居ない間にその機会が来たら、送ってやってくれって」
「マオがセロベルさんに義理立てして、行かないかもしれないからな」
全然そんなことない。セロベルさんのことなんて(いや、それ以外も全部)忘れてた。俺は不義理な人間のようだ。
山からずっと離れているのに、行列が伸びてきていた。俺はその最後尾に並ぶ。サッディレくんとアーレンセさんは俺の左右をかためた。
どんな試験があるんだろう?魔法だったらアウトだ。それに、能力証の提示を求められてもできない。
色々と不安はあるのだが、緊張はしなかった。緊張するような繊細な神経していない。だめでも、二度と試験をうけられない訳ではないだろうし、うかるまで粘ればいいのだ。奉公には年齢制限がない筈だから。




