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梨のパイは、さくっとしてとろーり甘くて、おいしくできていた。リアムくんルネくんサニエルくんはパイをとりあって、レミアンさんに叱られている。ジャヤさんはそれを見てくすくす笑っていた。
帳簿の精査は、よなかまでやるそうだ。思わず顔をしかめる俺に、ジャヤさんが云う。「マオさんはやすんでて。あたしら、やりかたは解ってるから。日の出までにはなんとかするわ」
「え、でも、お手伝いできますよ」
「休憩がとれて、ご飯どころかおやつもつくんだもん。充分よ」
四人が頷く。俺はちょっと考えた。
「じゃあ、晩ご飯豪華にしますね。お夜食もつけます」
「ワア、嬉しい」
ジャヤさんが心底嬉しそうに手を叩いた。
帳簿のことは五人に任せ、俺は厨房に戻る。汚れた食器は、グロッシェさんがすぐに綺麗に洗ってくれた。
梨のパイでお茶にしているサッディレくん達とツァリアスさん達を肩越しに見た。「サッディレくん、アーレンセさん、お疲れさま。お弁当どうだった?」
「全部売れたっす」
「好評でしたよ」
よし。
お皿を乾かしているグロッシェさんに顔を向けた。「グロッシェさん、もしかしたら、明日まで作業が続くかもしれないんですけど……」
「心配しないで下さい」グロッシェさんは鼻先をふよふよさせる。「今のうちにと思って、渡り廊下の修理を急いでもらってるんです。それに、普段お掃除がおろそかになっているところを、徹底的に綺麗にしていますから」
グロッシェさんのお掃除がおろそかだったことなんて、一度もないのに。
でも、ありがたかったので、頭を下げてお礼を云った。グロッシェさんは面映ゆそうにして、乾いたお皿を戸棚へ仕舞う。
「マオ」
中庭からリエナさんが這入ってきた。小さめの木箱を抱えている。「元気そうね!はい、これお見舞」
「わー、おいしそうですね!」
木箱には、ほどよく脂ののった牛肉が沢山。うまそ。
リエナさんは木箱を調理台へ置いて、ぱちんと手を鳴らした。「今日は家が忙しかったの。でも、こっちでみんなとご飯食べたくって。なにか手伝うから、お食事戴ける?」
断る理由があろうものか。
折角のいいお肉だ。シンプルに焼こう。
平鍋にバターと牛肉をいれて焼く。それだけ。バターに塩気があるので、味付けは必要ない。焼く前に筋を切ったり、ちょっと形を整え、焼く段になったら必要以上に触らず(焦げ付かないようにたまに動かすけど)、火も強からず弱からずを維持する。
付け合わせは、人参・じゃがいも・たまねぎを乱切りにしてオーブンでじっくり焼いたものと、炒めたアスパラガスと芽キャベツ。それらを並べたお皿に焼き上がったお肉を置いて、バターを贅沢にのせる。とろけるバターが旨そうだ。




