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お茶の時間だ。休憩にしましょうと号令をかけると、五人は一斉に伸びをした。「うーっ、肩がこる」
「もんでやろうか、ジャヤ?」
「レミアン、手を切り落とされてみたいんならやってみるといいわ」
ジャヤさんとレミアンさんは軽口を叩き合い、仲好しだ。若手三人も、こづきあったり、髪を引っ張ったりして、子猫みたいにじゃれあっている。
厨房へ行こうとすると、リアムくんがついてきた。「マオ、手伝わせて」
「え?いいよ」
「俺ん家、宿屋やってたんだ。お茶なら淹れられるよ」
「んー、じゃ、手伝ってもらおうかな」
自分から云うだけあって、リアムくんはお茶を上手に淹れた。
厨房の天井を見て、わー、と、歓声を上げる。「天井が高いなあ。うちはもっと小さかったよ。ふた棟もなくて」
「リアムくんは、レントの出身?」
「ううん。田舎の村。名前云っても解んないと思う」
カットした梨のパイをお皿へ移す。香りはいいけどちょっと水っぽい梨を、糖蜜でくたくたになるまで煮込んでフィリングにした。折りパイで、さくさく感がおいしい筈。
「今はやってないんだけどね」
「うん?」
「俺、小さい時に病になって、村の癒し手じゃ治せなくってさ。レントなら治せる癒し手が居るかもしれないって、姉さんが宿屋畳んで、きょうだいでレントに来たんだ」
リアムくんはティーポットの中身を俺が用意ししておいたボウルへあけ、新しいお茶っ葉をいれる。魔法でだしたお水を注ぎ、魔法であたためる。「レントに住んでる癒し手がだめだったとしても、御山からは偉い学者が降りてくることがある。それに賭けようって云ってたんだ。病で動けないから、乗り合い馬車で移動して。それがない時は、姉さんと兄さんに交互に負ぶってもらったな」
「大変だったんだね」
「うん。でも、レントについて、癒し手に恢復魔法をかけてもらったら、半年くらいで治ったから、よかったよ。お金は、宿を売った分でなんとかなったらしいし。だから、今は恩返ししてるんだ。できたら、宿を買い戻したいなって……俺は覚えてないけど、姉さん達には、親の思い出のある家だからさ」
リアムくんはティーポットをトレイへのせた。俺は梨のパイのお皿をその横へ置いた。
「だから」リアムくんは食堂へ顔を向ける。「あの帳簿に載ってるひと達の幾らかは、ひとごとと思えない。姉さん達だって、金が足りなかったら、借金してたよ」
そうだな。借金自体は仕方ない場合もある。どう考えても悪いのは、それにつけこむ悪徳業者だ。
リアムくんは振り向いてにこっとする。「マオ、そのおいしそうなやつ、俺沢山食べてもいい?」
いいよと返した。
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