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サッディレくんががちゃんと音を立ててティーポットをワゴンへ置いた。「じゃ、俺はお弁当売ってるから」
「ああ、ありがとうサッディレくん」
サッディレくんは肩をいからせてワゴンを押していく。なにか気に触るようなことしちゃったかな。
ツァリアスさんがくすくすして、からになったお鍋やかご、食器をワゴンへのせていった。「片付けておきますね。お茶のおかわりが必要なら、すぐに用意できますから」
「ありがとうごさいましゅ」
嚙んだ。痛い。
俺はごまかすためににっこりして、レミアンさん達に云った。「じゃ、はじめましょうか。俺、計算苦手なので、助けて下さいね」
五人は面喰らったみたいな顔だった。どうしてだろ。
貸付帳簿はうんざりするくらい沢山あって、うんざりするくらい小さな文字でうんざりするような金額が記載してあった。それはもううんざりする。
帳簿と云っても、今のものではなく、過去のものだ。ラッツァクでは、ルッタさんやセロベルさんみたく、一部のお客さんには、頻繁に借り直しをさせていたのである。借り直しの度に元本が増えて、詰まり借金は加速度的に増える。
でも、そういう規則でもあるのか、記録はきっちりすべて残っているのだ。だから、それらを計算しなおして、過剰にとりたてた分を借り主に戻す。
例えば、貝貨10枚を月利四割、なんてべらぼうな高利で借りていた、マイラ・リュスバニグというひとが居たのだが、最初の月には貝貨2枚しか返せず、返した時に借り直しているので翌月の利息は貝貨約5枚。その月も貝貨2枚しか返せず、翌月の利息は貝貨約6枚。その月も2枚しか返せず、その時点で元本は貝貨約19枚。四ヶ月くらいで元本がおよそ倍になっているのだ。最終的に、そのひとの借金は貝貨362枚と銀貨149枚にまでふくれあがった。借金の一部のかたとして、弟をウロアに差し出している。そして借金はその弟に移行した。貝貨100枚減ってはいたけれど、利息はひと月で約104枚。焼け石に水とはこのことだ。その借金のかたになった弟って、ゾラさんなんだけど。
過払いは貝貨148枚だって。なんてばかばかしいんだろう。うんざりする。
実際のところ、俺にできることはほぼない。五人が計算してくれた結果を、真新しい羊皮紙に書きつけていくだけ。それだけでもうんざりするのだから、計算している五人はもっとずっとうんざりしているだろう。帳簿に書いてあるものは単なる数字ではないのだ。あるひとの人生が借金に浸食され、ぼろぼろに崩れていって、最後には家族を失う、その過程である。




