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観光!ぷりんせす☆彡 キャラコ・ヨタキ・2

 

 串焼きを食べ終えると、キャラコとキョウスケは屋台の傍にあるくずかごに串とへぎを捨てた。おじさんが、ありがとうな、と云ってくれて、キャラコはにこっと笑み返す。「こちらこそ、おいしかったです」

「お嬢ちゃん、やさしいなあ」おじさんは感心したように云って、右手を伸ばした。「あっちに安い宿があるよ。銀の月亭って云ってな、枢機卿のご夫人がやってる宿で、ひと晩銀貨8枚でひと部屋かりられる。このまちじゃ一番安くて、一番いい宿だ。飯は出ねえけど、この辺でくえば安上がりだよ」

 キャラコはおじさんの示したほうを見る。それから、(地下)アイドルスマイルで云った。

「おじさん、ありがとう。また食べに来ますね」


「キャラコさんって、ひと付き合いも巧いんだね」

「そうでもねえ」

 ふたりは、おじさんのしめしたほう、まちの北側を歩いていた。とりあえず宿を確保しようと云うことになったのだ。「ああいうのは、キャラやから」

「きゃら?」

「なんちいうんかな。まあ、外面がいいちだけ」

 そう?とキョウスケは語尾を上げる。

 キャラコは肩をすくめ、目についた建物を示す。「あれやねえん?」

「ああ、そうみたいだ。銀の月亭って書いてある」

 白茶色のれんが造りで、大きな建物だった。馬車でもはいれそうな大きな両開きの扉が開け放たれている。扉の上の辺りに、看板、というのか、金属製らしい円形のものが壁に対して直角にさがっていた。よく見ると、上弦の月の形に文字を配置して、その上にフリージアの花をかたどったものがくっついている。文字らしきものは、しかしキャラコには読めなかった。ファンタジーものの映画、とキャラコは思う。

 キョウスケは平然とそちらへ向かう。キャラコはおっかなびっくりそれに続いた。このまちに這入る時、身分証?がないと解ると、門衛はふたりの入門を渋った。キョウスケが銀貨を数枚握らせると通してくれたが、キャラコは生きた心地がしなかった。もしかしたら、宿でもそういう検査があるのかもしれない。

 キョウスケのせなかに隠れるようにして屋内へ這入る。キャラコの、馬車も這入れそう、という感想は間違ってはいなかったみたいで、ロビーには馬車が数台並んでいた。這入ってまっすぐ奥には、木製の階段が上へと続いている。欄干にはフリージアの花と葉が彫られ、支柱と支柱の間には紺色のひもが蜘蛛の巣のように張ってあった。

 這入って右では、従業員と覚しい紺のローブ姿の少年達が、馬車を数えたり、馬車をひく動物の種類をたしかめていた。例のとかげみたいなやつや、気性の荒そうな馬に加え、大きな熊(!)が居る。キャラコは間近で熊を見、脚が震えた。

 キョウスケのローブのせなかを掴む。「キャラコさん?」

「……熊は慣れん」

「そうなの?田舎の出だって云ってたけど」

「熊はおらん。猪くらいや、おそろしいのは」

 大丈夫だよ、とキョウスケはキャラコの肩を抱いて、這入って左へ向かう。カウンタがあった。そちらにも紺のローブの少年や、少女が居る。どうやらあのローブは制服らしい。少年達はその下に様々な色のチュニックとずぼんを着ていて、少女達はまったく同じ淡い緑のドレスだった。

 大福帳みたいなのへ、鉄筆みたいなものとインクで書き込んでいた少女が、ふたりに気付いて顔を上げた。「いらっしゃいませ。おふたりですか」

「うん。ふた部屋空いている?」

「はい」

 少女はにこっとして、隣の少年へなにやら耳打ちした。少年が走って行って、階段をのぼる。

「ひと部屋、ひと晩で銀貨8枚です。荷物の盗難や、お客さま同士のいさかいには責任をとれませんので、あしからずご了承下さいませ」

「解りました。キャラコさん、いいかな?」

 頷く。身分証の提示を求められなかったから、それでいい。

 馬車が右手の壁にある出入り口から出て行く。厩があるのだろうか。

「では、こちらへお名前を」

 キョウスケがまず鉄筆をとって、名前を書いた。キャラコには読めない文字だ。キョウスケはこちらを見たが、キャラコが頭を振ると代筆してくれる。本名を書いたのか、偽名なのか、それが解らなくてキャラコは不安になってくる。

 先程の少年が階段をかけおりてきた。少女と言葉を交わすと、少女は背後の壁に下がった鍵をとる。

 キャラコとキョウスケに渡し、少女はにこっとした。「隣り合ったお部屋にいたしました。鍵についた紋様と同じ紋様が扉に書かれていますので、目印におさがし下さい」

「どうもありがとう」

 キョウスケは銀貨を16枚カウンタへ置いて、鍵をベルトに通したポーチへいれた。キャラコは鍵を収納する。

 少年少女に見送られて、ふたりは外へ出た。キョウスケはキャラコと自然に腕を組む。「キャラコさん、名前は書けるようになったほうがいいね」

「ああ、そうやな。……本名書いたん?」

「うん。そこは気にしなくてもいいと思うよ。最初のまちで俺を取り調べたひとは、ヒロフミって名前だったから。そういう名前のひとも居なくはないみたい」

「そうなんや」

 ふたりは話しながら、門のほうへと向かっていた。なにをするにも身分証が必要になる。まず、それをつくらないといけない。キャラコのスキル、偽装をつかって。


 まちから出てすぐのところに、「い」がある、のだそう。それは、ステータス画面を見るための場所、らしい。キャラコもキョウスケも、普通に見ることのできるステータス画面だが、こちらの世界のひとはその場所でないと見られないのだそうだ。ちなみに、キャラコはキョウスケのステータスを見られないし、キョウスケはキャラコのステータスを見られない。

 でも、「い」なら他人のステータスでも見れる。そして、キャラコの「偽装」は、ステータスを改竄できるのだ。

 偽装をつかって、偽装の身分証をつくる。それがふたりの計画だ。このまま身分証なしでは、魔王討伐もできない、と云うのはキョウスケの弁。魔王なんておらんかもしれんのに。

 でも、キャラコも身分証はほしい。まちに這入る時にどきどきしなくていいし、なにかと便利だろう。

「前に、別のいを見たんだけど、何人も泉を覗き込んで、そこにステータスを写してたよ。書き取って身分証を発行するひとが居てね。お金がかかるみたいだったな」

「へえ。……あ」

 ……わたし、こっちの文字解らんやん。

 キャラコはさーっとあおざめた。あしがもつれ、キョウスケがよろけつつ支えてくれる。

「キャラコさん?」

「……わたし、こっちの文字読めん」

「ああ、大丈夫じゃないかな」

「どうして」

 キョウスケは唇の前に人差し指を立てた。

 門のすぐ近くだった。キャラコは口を噤む。数時間前、賄賂で通してくれた門衛がまだ居て、ふたりが出て行こうとすると低声で云ってきた。「俺は日没までいるぜ」

 それまでに戻ってこい、と云う意味らしい。キョウスケが片手をひらひら振った。

 街道には馬車が行き交い、大荷物を背負って歩くひと達もちらほら目にはいった。「い」は、まちからそんなに近くはなく、ふたりは一時間くらい歩いた。

 だんだんひとどおりが増えてきた、と思ったら、小径があって、その奥がどうも「い」らしい。キョウスケとキャラコは、沢山の親子連れのなかに混ざって、そちらへ向かう。

「お祈りに来たの?」四十歳前後に見える、ふっくらした女性が、キャラコににこにこと話しかけてきた。「ご夫婦で」

 キャラコはなんと返していいのか解らず目をぱちぱちさせた。が、キョウスケがにこやかに云う。

「そんなところですよ」

「そう。びょうもいいんだけど、たまにはいに来なきゃね。わたしはこの子の能力証明証をとりに来たの」

 女性に手をひかれた、四・五歳の男の子が、含羞んでぷいと顔を背けた。キョウスケが、おめでとうございます、というと、女性は嬉しそうにした。

 参道(なのだろう、多分……)を暫く行くと、大きな門がある。そこを潜った。女性は、巧く行くといいわね、といって、人波に紛れて見えなくなる。

 お祭りみたいな感じで、ひとが多かった。キャラコはキョウスケに引っ張られるまま歩く。「前のいはこんなににぎわってなかったな」

「なあ、キョウスケさん……」

「キャラコさん、偽装をつかってみて」

 立ち停まった。キョウスケが停まったからだ。

 キャラコは、寸の間迷ってから、ステータス画面をひらく。キョウスケには見えないのだ。だから、ほかの人間にも見えてはいまい。

 キャラコはステータス画面を睨みつける。偽装をつかう、と考えると、妙なことが起こった。

 瞬きをしてもステータス画面が見えるのだ。キャラコは、目をぱちぱちさせ、試しにステータス画面を消してみる。見えなくなった……のだが、目を瞑ると見えた。

 頭のなかで書き換えろ、ということなのかもしれない。

 目を瞑って突っ立っているキャラコに、キョウスケは動じない。それがなんとなくありがたくて、キャラコはほっとする。

 格闘姫、を、戦士にかえた。すると、職業加護欄が勝手に変化して、体力強化と表示された。体力魔力はともに良にしておく。

 特殊能力から、偽装、言語:異世界を消そうとするが、消えない。改変はできても、消せないようだ。キャラコは焦ったが、思いついて、キャラ作成の時に見た特殊能力に書き換える。体力強化(小)と、魔力強化(小)だ。それでなんとかなった。

 あとは、収納空間を念の為Lv2に下げ、癒しの力はそのままにしておいた。Lvもいじらない。

 できた、と思うと、なにも見えなくなった。キャラコは目を開ける。「どう?」

「できたみたい」

 キョウスケにそう返し、あらためてステータス画面を開く。キャラコは戦士になっていた。「……うん。できたわあ」

「そっか。じゃ、俺のもできる?」

「やってみる」

 キョウスケを見詰め、偽装、と考えると、ぱっとステータス画面が出てきた。キョウスケのものだ。事前の説明と同じ。

 だが、改竄しようとすると、ぱっと新しいウィンドウが出てきた。キャラコは片足をさげる。

「キャラコさん?」

「……一回にひとりだけみたいやわ」

 ウィンドウには、「スキル使用中です 1/1」と書いてある。多分、キャラコが偽装できるのは、一度につきひとりのステータスなのだ。

 そんなことを低声で説明すると、キョウスケは軽く云った。「じゃあ、キャラコさんが先に能力証明証をとってきて。その後、俺のステータスを改竄してくれたらいい」

 成程。

 キャラコは頷いて、息を整え、大きな四阿のような建物へ近付いていった。お参り客は大体がそちらへ流れていっているから、と云う理由で、くわしい方法は知らない。


 結論から云うと、あっさり成功した。キャラコは回廊みたいなところをすすんでいって、大きな泉の前まで行き、まごついていると白いローブのおばさんが説明してくれて、銀貨一枚を払うと能力証明証をつくってくれた。泉を覗きこむと文字らしきものは浮かんだのだが、読めないのでひやひやした。でも、戦士なのね、とおばさんがにこにこしていたので、巧くいったのだ。

 能力証明証を握りしめ、別の回廊を通って戻ると、キョウスケは暢気に揚げパンを抱えていた。キャラコは緊張で見えていなかったが、屋台が幾らか出ている。キョウスケは自分はひとつも食べずに、能力証明証を収納したキャラコに揚げパンの包みを渡した。

 キャラコは自分のステータスにかけた偽装を解除し、キョウスケのステータスをいじる。体力魔力はどちらも良に、死神は戦士に、瞬間移動は速歩に、言語:異世界は魔力強化(小)にして、巡らせる者はそのまま。

「確認して」

「……うん。巧くいってるよ」

 キョウスケはにっこりして、待っててね、とキャラコをベンチに座らせ、泉へと歩いて行く。

 キャラコは機械的に、揚げパンを口へ運ぶ。ドーナツ、が正しいのだろうか。掌大の小麦粉生地を揚げたものだ。ふんわりして歯切れがいい。揚げパンのように砂糖をまぶしてはいないが、生地そのものが甘かった。

 おいしいなあ、と思っているうちに、気付くとなくなっている。キャラコは包み紙をくずかごへ放りいれ、ぼうっとした。身分証をつくったら、ギルドへいって、冒険者になって、依頼をこなしていこう、と、キョウスケは云っていた。そうしていれば、だんだん仲間が集まって、強い敵があらわれて、魔王への手がかりが見付かるのではないか、と。

 それは、キャラコには、穴だらけの計画に思えた。そもそも、キャラコとキョウスケ以外に、別の世界から来た人間がいるとは限らない。そして、もし居るとしても、世界の反対側に居るかもしれないのだ。会えるとは限らない。ついでに、なんらかの理由で対立する可能性だってある訳で……。

 でも、キョウスケと別行動をする勇気は、キャラコにはなかった。いや、昨日までは、ここで別れてしまおうか、と頭を過ることはあったのだ。だが、まちに来るとそんな考えはなくなった。だって、キャラコは文字を読めないのだ。キョウスケは文字を読めるし、書ける。

 文字が読めないまま、騙されたりしたら、と考えるとだめだった。こわくてひとりになんてなれない。せめて、読めるくらいになってからでないと、キョウスケと離れたくはなかった。

「キャラコさん」

 はっとして顔を上げると、キョウスケがにこにこしていた。「おいしかったみたいだね」

「あ。うん」

「もう少し食べる?安いよ」

 ううん、と頭を振って、キャラコは立ち上がった。キョウスケはキャラコの腕をとって、歩き出す。

「うまくいったん」

「勿論。ありがとうキャラコさん」

 キャラコは頷いて、偽装を解除した。ふたりは門を潜って、参道を、街道へと歩いて行く。能力証明証を振りまわしておおはしゃぎの子ども達が目についた。

「……キョウスケさん、おなかへってないん?」

「少しだけ。大丈夫、キャラコさんにも、ほかのひとにも、迷惑はかけないから」

 キョウスケはにこっとして、こちらを向いた。

「ギルドに行って、魔物退治の依頼を受けようよ。レベルを上げられるし、空腹もなんとかできる」

 そうやな、と云うしかない。魔物と戦うなんて、こわくてしたくないのに。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王を倒す方向性じゃなく仲間になって マオくんのも偽装してくれないかな〜 ほのぼのがみたい、、、
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