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ラッツァクの帳簿など、書類は、警邏隊が明日にでも届けてくれるそうだ。ツィークくんは俺をまだまだ怪しんでいるけれど、雪だるま式にふくれあがった借金を精査する、と云うのには賛成みたい。マオさんって変ですねとまた云われたけれど。
あと、傭兵協会から、計算に強いひとを数人貸してくれるらしい。やった!こちとら計算は苦手なのだ。
食事のお礼を云って帰る傭兵達へ、俺は声をかけた。「ツィークくん?」
「はい」
ツィークくんが振り返る。
「マイファレット家はどうなるの?」
「ああ……すでに警邏隊が向かっています。実際にかどわかしに関わった者は捕まりますね。ディファーズだと、ひとりかどわかしても荒れ地送りの可能性があるらしいですけれど、裾野だと荒れ地送りは三人からです。ジーナさんのかどわかしにだけ関わったひとは、多分賠償金を払えばゆるされますよ」
マイファレット嬢が関わったとされるかはビミョーだな。まだ子どもだし、酌量はしてもらえるのだろうけれど。
あの感じで、家が人身売買で儲けてると知っていたとしたら、こわい。知らなかったと思いたいな。
どちらにしてもマイファレット家は潰れるのだろう。ディファーズでは人攫いは重罪らしいし、神聖公がゆるすと思えないから、国外追放なんてことになったりするのかな。だとしたら、マイファレット嬢は裾野にとどまるしかなくなるのか。どうなるんだろう?帳簿を見る限り、マイファレット家は相当な数の取引に関わっていたみたいだから、賠償金は莫大になる(その上で、マイファレット卿は荒れ地に送られるのだろう)。お邸は維持できないだろう。マイファレット嬢、大丈夫なのかな。俺が心配したって仕方ないかあ。
考えこんでしまった。ツィークくんが俺の顔を覗き込む。「マオさん?気分でも悪いんですかあ」
「ううん。マイファレット嬢、大丈夫かなあって」
「はあ?」
「まだ子どもだしさ。なんとか不幸なことにならないでほしいなって」
「……やっぱり変なひとですね、あなた」
ツィークくんはそう云って背を向けた。「今度は罵りですよ」
??
傭兵達が居なくなり、俺は厨房に這入った。グロッシェさんが食器を洗い、ツァリアスさんとサッディレくんがオーブンから灰を掻き出し、アーレンセさんとベッツィさんが余ったお菓子を包んでいて、リエナさんはからになった木箱を外へ運び出している。
なんだか凄く安心した。
手伝いますよ、とグロッシェさんの隣に並ぶ。邪魔なだけかもしれないのに、グロッシェさんは鼻先をふよふよさせて、ありがとう、といってくれた。




