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そんなふうに、少しだけれど転移者関係のあれこれが進展して、事件のことは気になっていたが、ひとごとのように思っていた。
俺が狙われる訳もなければ、第一に、入山者に喧嘩を売りに来る人間の気持ちなどわからない。だから、考えても仕方ない。物的証拠が出てくればなにかしら、推理らしきことだってできるのに。
そんなふうに、自分とは関係のないこととして考えていた。
なにより、御山は安全な場所だ。それでつい、のんびりしていたが、云われてみればそうである。俺、目撃者だった。
「逃げる、というのは、たしかに一番の方法だろう。お前ならそういうと思った。お前は、戦うのを好まない。戦って勝てるとしても、無駄をきらうから」
リッターくんは思案げにしてから、小首を傾げた。無駄をきらう、ね。正確には、疲れるのがいや、だ。走りまわるのはだいきらいだし、魔法を沢山つかうのだって疲れる。ヤラ達に無駄に戦わせるのだって、申し訳ない。
「しかしお前の体力では、大概の相手から、なにもなしに逃げるのは不可能だろう。逃げるのに有利になるよう、相手の進路を塞ぐのがいいと思って、それを用意した」
またしても、率直なものいいである。
「リッターくん、凄いね」
「凄くはない。誤解させたのなら悪いが、用意したといっても、俺がつくったのではない。錬金術士につくらせたものだ。間違いのないものだから、安心してほしい」
リッターくんらしい。ほんとに。
俺は苦笑で頷いて、ひらひらと手を振りながら、踵を返した。
「マオ」
「リッターくん、ほんとにありがとう。忠告も、燃焼剤もね。今度、お礼する」
肩越しにリッターくんを見る。「おにぎり沢山、つくっておく」
「それはありがたい」
リッターくんが居住まいを正してそう云ったのが、やっぱり面白くて、俺は笑いながら寮舎へ這入った。リッターくんはしばらく見送ってくれた。少しして振り返っても、まだそこに居た。
厨房へ戻る。呼ばれている、というから、手が足りないのかと思ったが、そうでもないようだった。
ルクトくんが大きなお鍋ふたつを前に、あくとりしている。助っ人に来てくれている(ねえもう、こっちに移動してくれればいいのになって思ってしまうんだけど!)タイティーダさんが、お皿を洗ってくれていた。彼女はお洗濯に来てくれているから、多分業務外の行動なのだろうけれど、ありがたい。
「お疲れさまです。タイティーダさん、ありがとう」
「ああ、いいよ、これくらい」




