6772
ミューくんが苦笑いで、リッターくんの肩の辺りを軽く叩く。今までになく親しげな調子である。やっぱり、警戒は以前よりはうすれているらしい。まあね。リッターくん、いい子だし、ミューくんに対して積極的なのは尊敬故だし。たまに言動が、誤解されそうなこともあるというだけ。
ていうか俺相手でも、なんならセロベルさんでも、リッターくんは距離が近い。物理的に他人に近付いても平気なタイプなのだ。余裕があるのか、フレンドリーなのか(口数少ないからそう見えないけど、リッターくんは友達をほしがっているらしい)。護衛士、というのがそれをさせているのかもしらん。他人の近くに居て、なにかあればまもるものだと、彼は自分の役目をそう捉えているから。
ミューくんはリッターくんの肩をぺたぺたやって、俺を見た。
「俺、負ぶってもらったんです」
「へえ。リッターくんに?」
「はい。なあ、リッター。重たかったろ。俺はユラみたいに小さくないから」
ミューくんに見られて、リッターくんは頷く。「ああ。しかし、ユラより随分楽だった」
ミューくんのほうがユラちゃんより身長があり、絶対に重たいと思うのだが、何故かリッターくんはそう云った。俺とミューくん、どちらも不思議そうにしたからか、肩をすくめて付け加える。
「あれのように煩くない」
ミューくんが顔を背け、声を殺して笑っている。俺も、笑いそうになって、こらえた。
マグを返しに来た警護班に、具が少なかったと文句を云われて、ワウラさんがその警護班を小突いている。それを視野の端に捉えながら、俺はミューくんの話すのを聴いていた。
「ようやくと、すべてから解放されましたよ」
「試験のこと?」
「ええ」
ミューくんは平然と、レードルを持って、マグへスープ注いでいる。お手伝いしますよと云ってくれて、笑顔でやってくれているのだ。廟や魔物討伐の遠征で、料理の用意をしたり給仕を手伝ったり、慣れているのだという。多分それはいいわけで、俺と話すのに、なにもしないで立っているのがいたたまれないからだろう。彼はそういうところがあった。些細なことでも、罪悪感を覚える。
リッターくんが、警護班や警邏隊から、からのマグを回収して戻ってきてくれた。ワウラさんが短くお礼を云い、ワゴンにそれをのせて、俺を見る。「これ、戻しとく。かわりのマグ、要る?」
「あったほうが助かるよ」
「諒解」
ワウラさんは警護班をもう一度小突いてから、ワゴンをおして、寮舎へ這入っていった。




