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ディロさんはちょっと黙ってから、くすくすっと笑った。表情は苦笑いに近い。「やなとこだったって思ってたのに、そうでもなかったみたい」
納得したみたいに、小さく頷く。
「そうだね。景色はいいとこだったの。あと、お魚屋さんが親切だった。場所が場所だから、還元されたものしか売ってなかったけど、おいしかったし。あ、つまみ喰いじゃないからね。余ったものを食べてたの。家政を預かる人間の特権。でしょう?」
いたずらっぽく云う。俺もサフェくんもくすっとして、同意を示した。「ですね」
「それくらいうまみがないとやってられないもの」
サフェくんのいいぐさがあまりに的を射ているので、俺とディロさんはぷっとふきだしてしまった。サフェくんは満足そうに頷いている。
「ここも、いつかそんなふうになるのかな」ディロさんは笑いをひっこめて、なんだか感慨深そうな顔になる。「いつか、奉公人を辞めたあとに、思えるのかな。御山だからじゃなくて、パンがおいしかったなとか、そんなふうに、自分の思い出のある場所として、振り返ることができるのかなあ。……そうなってると、いいなあ」
俺もサフェくんも、やっぱり同意を示した。今度は頷くだけで。
ディロさんが以前居たそのまちには、観光地はなく、特別めずらしい薬材や金属が採れるでなく、そこにしかない名産品があるでもなくて、荒れ地に近いまちのなかでは地価が安めなのが売り、というような場所だった。
レントのような大きなまちとは比べようもなく小さく、薬草市の期間ではないアムディスにも勝てないくらいの少人数しか定住していないがしかし、村とは云えないくらいにひとは居るし施設もあるしそれなりににぎわっている。
要するに、中途半端な規模だったよう。理由は、荒れ地へ向かうまたは荒れ地から帰ってくるひと達の中継地に、丁度いいから。
「まち」と云えるような規模で・装備を売っているお店や薬工房や廟があり廟には癒し手が数人居て・娯楽施設も幾らかあり左右組も存在しており・ある程度頑丈な塀があって・地価が安いのでお宿もお食事代もお安くあがる。
観光地や鉱山など、それを目当てにそのまちへ行くというものはなくても、荒れ地への中継地点としては優秀すぎる。なので宿屋は多かった。ディロさんが件のお魚屋さんへ行く道中、数分歩くだけで三件もの宿屋があったという。まちのどこでもそんな調子で、一般家庭でも一晩幾らで寝床をかしたりしていた。




