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同期ではあるけれど、御山へ来る以前のことなんてお互いにほとんど知らないからな(自己申告分を除いて!)。俺が想像していたよりもずっと、サフェくんもディロさんも、危険な目に遭ってきたのかもしれない。
俺の「世迷い言」をどう処理するかなんて、危険な目に遭ってるのと一緒だ。立ちまわりによっては天罰くらいそうだし。
なんだかよくわからないが、空気がちょっと、張り詰めていた。なんの為かよくわからん緊張感がある。おもに、ランスさんとワウラさんの間に。
「まあ……その、なによ」
軽く肩をすくめるワウラさんは、ランスさんにだけ喋っているみたいだった。ランスさんをまっすぐ見ている。
サフェくん達はある程度、俺の話を聴いてくれた。というか、飲みこんでくれた。だから、まだ納得していない様子のランスさんにだけ、云っているのだ。
「また、今度でいい? 明日にでも。や、夜でもいいんだけど。ランス、あんたの都合のいい時にあわせるからサ。云ってくれれば。あたしとしては、マオの」
「いいよ」
ランスさんは低めた声で、遮った。
ワウラさんが小首を傾げる。緊張感がたかまる。
「もういい」
意外に、落ち着いているような声だった。或いは、とりつくろっているような声だ。
ランスさんが俺を見た。唇をひき結んでいて、眼差しは強い。でも、睨んでいる、とまでは云えない。哀しんでいるような、困っているような、そんな目をしている。
目が合っている。戸惑っているのかも、と思った。理解しかねる。そういう顔だった。
「もう充分」
なにか、突き放すような、そんな声だった。そんな調子だった。
「わかったから。あんた達のいいたいことは、わかった。わたしは、なんにも、云うことはない。わたしのことは気にしないで」
ふいっと、顔を背け、ランスさんはすたすたと、厨房を出て行った。ディロさんが心配げにそれを追う。「ねえランスちゃん……」
メイリィさんが顔を上げ、俺を見た。どういう意味合いの眼差しかははかりかねた。
メイリィさんはすぐに目を逸らし、天板をオーブンへいれる。サフェくんも、そうした。オーブンの扉が閉まる。
それきっかけで、空気が弛緩する。緊張の糸が切れた、というやつか。先程、ワウラさんがランスさんへ話しかけた時には張り詰めていたものが、だらんとしている。目に見える訳でもなんでもないが、なんとなくそんな雰囲気だった。




