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ユラちゃんが咳込むのを無視して、俺は云う。
「ジーナちゃんの気持ちが大事だと俺は思います。ジーナちゃんに相談……っていうか、提案するのはどうですか。こういう方法なら大丈夫だって、ジーナちゃんを説得するんです」
「できませんわ」
マイファレット嬢はふいっと目を逸らし、震える声で云う。「わたくし、さっきも云ったのです。いやなら辞めなさいって。ミューにも失礼だなんて、そんな、無礼な、彼女の気持ちを踏みにじるようなことまで申しましたわ。ああ、やりなおせればいいのに」
嘆くように、調理台を小さく叩いて云い、彼女は項垂れた。自分の失態を口にするのは随分勇気が要るだろうに、それができるんだから、彼女はやっぱり、結構な人物だと思うのだが。
「あの子を傷付けたくはなかったのです。そんなつもりで話していたのではないのに、この口が憎ったらしいことを喚いてしまって、ああ、消えてしまい。わたくしは愚かだから、うまく説得することなんてできませんわ。あの子は優しくて、賢くて、なにより我慢強すぎるのです。大人しくって、控えめで。わたくし、あの子を前にして、冷静に喋れません。それに、わたくしみたいなこらえ性のない愚か者がなにか云ったって、気持ちをかえる子ではありませんわ」
「できるできないじゃなくて、やるんです」
つい、強い調子になった。マイファレット嬢はおずおずと、俺を見る。ユラちゃんが咳から解放され、喘いで、俺を見る。「マオ? あんた……?」
「ま、マオさん?」
「さっき、マイファレット嬢が云ってたことを、そのまま云えばいいと思いますよ。それで充分伝わります」
マイファレット嬢は目を白黒させる。なにを云っているのかと、吃驚したらしい。俺は微笑んで続ける。
「マイファレット嬢がさっきみたいに、真剣に自分の意見を云えば、幾ら大人しくて控えめなジーナちゃんでも、自分の気持ちを明かしてくれるのでは?」
「そ……そうですかしら」
「優しい子ですから、真剣に自分のことを思ってくれる相手に対して、ばかにするような態度はとりません。マイファレット嬢が真剣なら彼女も真剣になります。それで、我慢してでもミューくんと結婚するのがいいんだってジーナちゃんが云うなら、その時にはさらいましょう」
「マオ!」
ユラちゃんが鋭く云う。俺は頭を振る。「だって、我慢するって云ってるんだから、いやなんでしょう。いやな時にしか我慢するなんて云いませんよね。違います?」




