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彼はさっきよりは声を大きくしたけれど、ユラちゃん達には届かない程度だ。勿論、かまどの前に居るメイリィさん達にだって、聴こえない。
アロさんは魔法で、水を出した。それでお皿をゆすいでしまって、かごへ置く。しゃりんと、金属のお皿同士がぶつかる、楽器みたいに綺麗な音が鳴る。
重たいお皿は、でも丈夫で、割れないから、俺は最近その利点に助けられている。極限に忙しい時(或いは、忙しさにはらがたっている時)には、寸胴に汚れたお皿をどんどんつっこんでしまって、お湯をいれてぐらぐらゆがく。そうやって簡単に消毒してしまえるのだ。陶磁器と違い、割れる心配をしなくていいのは、気が楽だった。ぽんぽん放りいれても大丈夫って、ありがたい。
「マオ、それは僕らの考えることじゃない」
アロさんはタオルで手を拭い、小首を傾げた。
「仕方のないことだよ。助けを求められなければ、僕達は動けない。そういうものじゃない。やっちゃいけないことだからね。慮ったつもりで、自分の思い込みだけで動くっていうのは」
「……そうですね」
頷いて、たらい以外なにもなくなった流しを見る。
それはたしかにそうだ。人間は嘘を吐くし、建前もいう。でも、本当のことも口にする。だからややこしい。だから、助けを求めるひとを助けるのはよくても、こっちが勝手に配慮してやるのは、傲慢だし、迷惑になることだってある。アロさんの云うように、慮る気で反対のことをしてしまうような、ばかなことだって起こる。
たらいの中身を捨ててしまって、一度洗った。アロさんが棚から、粉石鹸を持ってきてくれる。たらいにお湯をはって、それを溶く。「先生に伝えるのは、僕に任せて。悪いようにはしない」
「お願いします」
頭をさげる。アロさんは苦笑いというか、ちょっと哀しげにして、小さく頷く。言葉はもうない。
俺は手を拭きながら、調理台へと戻っていく。マイファレット嬢は口いっぱいにサンドウィッチを頬張っていた。ユラちゃんのサンドウィッチは、お皿の上で乾燥していくばかりだ。いつもの彼女なら、小さな体に見合わない量をぱくぱく食べるのに、今は心細そうにお茶をすすっている。ユラちゃんを見て、心細そう、なんて思ったの、数回しかないんじゃないかな。彼女をそんな状態にまで追い込んだマイファレット嬢、やっぱり凄いのでは。
「マイファレット嬢。ジーナちゃんと相談しましょう」
マイファレット嬢は俺を仰いで、不審そうにした。ユラちゃんがむせる。




