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あー……そっか。魔物って、人間にとって脅威であると同時に、有益なお薬やなにかをもたらすものでもあるんだ、きっと。
そういえば、サローちゃんはホートリットの死体のほとんどを薬材としてつかうようなことを云っていたし、ライティエさんが持っている盾も、竜を還元したらできたんだっけ。そんな話を聴いた覚えがある。
パラメータを底上げする装備品も手にはいるとしたら、魔物が居ないってことは、ずぬけたひとが出にくかったり文明が頭打ちになる、っていう発想になるのかも。
ああ、やっぱり、わからん。魔物が居ない世界に生まれ育った俺からすれば、魔物が居るってことは防ぐ手立てのない災害が頻繁に起こるようなものなのだ。実際のところ、魔物に襲撃されたら怪我人や、へたしたら死人が出るし、建物や防壁は破壊される。
それが、予測もできないタイミングで起こるのだから、魔物なんて居なくていいものだと思っていた。
でも、台風や大雨、火山の噴火なんかを神さまの恵みだと考えてる宗教って、存在するよな。それに近いのかもしれない。台風で植物の種が運ばれてきたり、大雨で土地が豊かになったりする、っていう感覚に近いかも。
俺はこちらで育った訳じゃないからはっきりしない。完全には理解はできない。それは、この子達も一緒だ。俺の話を一から十まで理解してくれることはないと思う。
だから俺が、丁寧に、きちんと説明しないといけない。
「でも……錬金術士なんか、居ないんでしょ。どうやって薬をつくるのよ」
ユラちゃんがぼそりと云った。ミューくんが片眉をつり上げてユラちゃんを見る。「ユラ、どういう意味?」
「そのままよ」ユラちゃんは肩をすくめた。顔をしかめている。「気色の悪い話だけど、マオの育ったところには職業ってものがないんですって」
その言葉は甚大な効果をもたらした。サキくんがひっと息をのんで、ミューくんを乱暴に膝に抱え上げ、彼の背骨をへし折ろうとするみたいにきつく抱きしめたのだ。
ミューくんは顔をしかめたが、サキくんに抗議することはない。顔をしかめたのも、痛みよりも、職業がないという言葉に対する反応なのじゃないだろうか。なにしろ、大概のことに動じないユラちゃんが天幕をとびだしたくらいの言葉である。
サキくんは顔色が非常に悪かった。ほとんど瞬きもせずに俺を見詰めている。
「職業が……それって、宣言しないってことですか、マオさん? どうしてそんなことを? どんな職業だって、便利なのに。そりゃあ、不名誉ななまえのものもあるけれど、それだって有用な職業加護が」




