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「サキ、落ち着いて」
ほーじくんがサキくんの腕を優しく叩いた。「ミューが痛そうだよ」
サキくんはぽかんとして、ほーじくんを寸の間見詰めた。それから小さく震え、腕をゆるめる。
「ミュー、ごめん」
「いいよ」ミューくんはやわらかくて、とても小さな声を出す。「驚いて、痛いもなにもないさ」
みんな、ちょっとだけ黙った。
俺が口を開こうとすると、遮るようにほーじくんが云った。
「サキ、ミュー。マオの世界には職業はないんだって。宣言しないとかじゃ、ない」
「そんなの変だよ、ほーじ」
サキくんはどうしてだか、俺ではなくてほーじくんに抗議した。また、強めにミューくんを抱きしめている。サキくんにとって、ミューくんは精神安定剤みたいなものなのかもしれない。彼はよく、ミューくんにしがみついて、不安そうな顔をしている。
ほーじくんが頭を振った。
「ううん。サキ。マオから見れば、この世界が変なんだよ」
「そんな……でもそれは……」
「マオの世界には魔物は居ない。職業もない。マオがそう云ってるから、それは本当だと、ぼくは思ってる。サキは、マオを信じられない?」
サキくんが口を噤んだ。ミューくんが呆れたみたいに、小さく、ほんの短い間、笑い声をたてる。
「ほーじ。弁が立つな、君は」
ほーじくんは激しく頭を振った。
咀嚼するのに時間がかかる話だろう。咀嚼したところで、のみこまなくてもいいのだし。
でも、サキくんもミューくんも、俺を理解しようとしてくれた。「わかりました」
サキくんは小さく頷く。
「とりあえず、信じます。マオさんが僕らに、そんな……」
「そんな、突拍子もない、変な嘘を吐く訳がない。だろう? サキ」
ミューくんが引き継ぐように云い、サキくんは頷いた。ミューくんは優しい目付きでそれを見てから、俺へと顔を向ける。いつになく、険しい表情だった。
「マオさんの気が狂れてるって可能性はあるけどね」
「ミュー!」
ユラちゃんが大きな声を出した。それからその大声に自分で吃驚したみたいで、はっと息をのむ。
ミューくんはかすかに、哀しそうだった。「ユラ、俺は経験上、突拍子もない話を自分で信じ込んでるひとを何人も見てる。だから、マオさんの話をまるごと信じることはまだできないし、しないほうがいいと思ってる」
「ミュー、あんたって」
「だからってマオさんを今すぐ廟へつれていくとか、そういうことはしない。俺から見て、マオさんは健康そうだしね」
ミューくんは肩をすくめた。「俺にわからないだけってこともあるけど。とにかく、話は最後まで聴きます、マオさん。約束しましたから」




