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「話が弾んでるみたいだな」
ミューくんがサキくんと腕を組んで歩いてきた。ミューくんは今日はむくみもさほどではなく、腕の震えもかなりおさまっているらしい。
サキくんの表情は、やわらかいものだった。やつれた印象はうすれている。「なんの話?」
「ミューとネクゼタリー卿のことよ」
「え、俺?」
ミューくんがきょとんとする。
かいつまんで、先程までの話をした。そうしながら、俺達はゆっくり歩いている。
ひあたりが丁度いい場所を見付けたので、じゅうたんを二枚、敷いた。みんなでそこに座る。俺はほーじくんとユラちゃんにはさまれ、ユラちゃんの向こうにはリッターくんが居て、彼はなんとなく心ここにあらずといった様子で、時折宿の建物を振り返る。ニニくんが心配なのかもしれないし、なにか別の理由かもしれない。
ミューくんはサキくんとほーじくんにはさまれて座り、嬉しそうにふたりに肩をぶつけた。ミューくんらしからぬ、子どもっぽい仕種だ。
それからミューくんは、その動作をやめ、かすかに口角を上げた。
「ネクゼタリー卿と、廟で顔を合わせたことは、何度かあるよ」
「そうなの?」
「でも、俺は治療をずっとしてて、卿は」
ミューくんは言葉を切り、哀しそうに微笑む。サキくんに凭れるみたいにすると、サキくんはミューくんの肩を抱いた。ごく自然で、ためらいや戸惑いの感じられない動きだ。
「あのかたは、もう手の施しようのないひとの傍に、ついていらしたから。喋ったりする機会はそんなになかったな」
「……そう」
「ネクゼタリー卿は、沢山のひとの魂を救ってきた。尊敬すべきかただ」
ミューくんは、枢機卿でも大司教でも、俺達に対してはかなり歯に衣着せぬ評を聴かせてくれる。というか、位の高いひとに敬意は払うしきちんと礼は尽くすけれど、尊敬をする訳ではない、という感じなのだ。
でも、ネクゼタリーさんはこれだけ誉めるのだから、ネクゼタリーさんは本当に凄いひとなんだろう。ユラちゃんの云うとおりで、ネクゼタリーさんはもっと胸をはって、威張っていたっておかしくない。
彼にとっては、自分が祇畏士ではないこと、恩寵魔法をつかえないことが、もの凄い「はじ」なのかもしれない。なにかの罰のようにとらえているのかもしれない。
みんな、黙っている。
風が吹きつけて、おさまった。かすかに、たまねぎを炒めるような香りが漂ってきたが、すぐに消えた。厨房で料理がはじまったのだろう。
前庭にはもう、俺達以外には誰も居なくなっている。散歩していた動物達も、それについていた人間達も、姿を消していた。




