3945
「飯、くう?」
「ああ、ちょっとみんなとお散歩しようと思って。喋りたいこともあるし」
俺の云う「みんな」が誰をさしているのか、ダストくんにはわかったらしい、誰のことだと訊いてくることはない。微笑んで、俺の頭を軽く撫でる。
「俺は聴かないから」
「え?」
「お前がいきなり居なくなって、またいきなり戻ってきた理由」
俺は口を噤む。
ダストくんは手をおろす。微笑みのままだ。
「俺は入山しても、結局裾野の人間なんだよ」
「……えーと」
「荒れ地は神聖な場所だ。おそろしい場所だけれど、主に近い。俺達に恩恵を与えてくれる。御山も、主に近い、特別な場所だ。だから、荒れ地から出てきたお前が、御山で消えて、また荒れ地から出てきたって変じゃない。お前が荒れ地でぴんぴんしてるのは、主に愛されてるからだ。そう思ってる」
俺はなにか云いたいが、なにも云えなかった。ダストくんは静かに、ゆっくりと云う。「だから、お前が居なくなった理由も、戻ってきた理由も、聴かなくていい。主の思し召しだと考えたほうが、俺にとっては楽しいからな」
「ダストくん」
「でもあいつらは、裾野で、それも荒れ地近くで育った訳じゃない。いろいろ、折り合いつけたいことはあるだろう。その為に、必要な情報もきっとある。説明できることなら、してやれよ」
そう云って、ダストくんは片手を振りながら食堂へ向かった。「俺はなつめやしくいたいから、欠席」
俺はダストくんになにか云いたかったが、なにを云ったらいいかわからなくてなにも云えなかった。
厨房には這入れなかったけれど、フロントのひとへ、昨夜のトマトスープがおいしかったのでつくりかたを知りたい、というと、料理人へ訊いて参りますと奥へひっこんだ。すぐに、レシピを書き付けた羊皮紙の切れ端を持って、戻ってくる。「こちらでございます」
「いいんですか?」
だめもとだったのだが、ここの料理人さんは尋常じゃなく気前がいいみたいだ。フロントのひとがにっこりして頷いた。
「つくりかたを訊かれるくらい、気にいってもらえて、嬉しいと」
「あ……そうですか」俺は羊皮紙をうけとる。「あの、これ、お礼です」
フロントに置いたのは、はちみつの詰まったつぼだ。蓋を開けなくても香りでわかるのだろう、フロントのひとは目をきらきらさせている。対価として機能しているらしいので、ほっとする。
俺はもう一度お礼を云って、フロントから離れ、外へ向かった。羊皮紙を収納する。




