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「はい、サキ、こっち向いて」
サキくんが顔の向きをかえ、ミューくんも少し移動した。さっきまでつかっていたブラシを置いて、目の細かい櫛を手にとり、ミューくんはサキくんの髪を丁寧にくしけずる。「ミュー、もう充分だよ」
「だめ。サキ、折角男ぶりがいいんだから、きちんとしていなくちゃ」
サキくんがぷっとふきだして笑った。
「ミュー、からかわないで」
「からかってない。サキがきちんとしてないと、一緒に歩く俺がはじをかくんだぜ」
ミューくんも、そんなことを云いながら笑っている。このふたりは最初、よそよそしい感じだったのに、こんな軽口を叩くまでの仲になったんだ。
俺は微笑んでそれを見ていたが、やっぱり部屋割りとベッド割のことが頭から離れず、ふたりに声をかけた。「ねえ、ちょっといい?」
「はい」
ミューくんが櫛を置きながら俺を見た。サキくんの髪を優しくまとめ、どうやら今からみつあみをするらしく、ブロック分けしている。
俺は苦笑いになってしまった。
「あの、ちょっと気になっちゃって。隣、大丈夫かなって」
「隣?」
サキくんがくすっとした。「大丈夫ですよ。なにも起こりません」
「ダストさんは紳士だし、ネクゼタリー卿とサーダ卿はいわずもがな」ミューくんはなんとも云いがたい表情をうかべる。「リッターも、まあ、あの、な。ちゃんとしてるから」
「ミュー、まだリッターが苦手?」
サキくんが首をのけぞらせて、ミューくんを見る。ミューくんはどういう意味か、サキくんの額を軽く叩いた。サキくんは笑いながら、首をもとに戻す。
「苦手って云うか、あいつなに考えてるか未だにわからないんだよ」
「ああ……」
「でも、心配ないですよマオさん。みんな強いですもん。誰かが血迷っても大丈夫」
ふたりがなにを云いたいのかいまいちわからない。俺は曖昧に笑う。こういう場面で笑ってごまかそうとするのは、俺の悪いところだ。
「いや、ほら。ネクゼタリーさんも、ダストくんも、リッターくんも、結構体格がいいでしょ?」
ミューくんは一瞬きょとんとした。
「……ああ、そうですね。リッターのやつ、身長はそれほどじゃないけど、体が分厚いから」
あれでそれほどでもないの? こっちの世界の平均身長ってどうなってんの?
それなりに傷付いたのだが、俺は頬をひきつらせつつ云った。
「う、うん。だからさ、サーダくんと誰かなら、大丈夫だと思うんだけど、あまったふたりが同じベッドになったら、寝てる間に落ちちゃったりしないかなって」
一拍あって、ミューくんがベッドから転がり落ちた。
感想ありがとうございます。はげみになります。




