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ミューくんはよほど、リッターくんの言葉、というか態度を承服しかねたのか、それだけ云うと肩を怒らせてずんずん歩いていった。後ろ姿がとても怒っている。「ミュー」
サキくんが慌ててそれを追う。少し行くと、一瞬立ち停まって振り返った。緊張と心配とで、感情が高ぶっているらしく、サキくんは笑うみたいな顔になっている。
「リッター、ミューを怒らせないでよ。彼、こわいんだ。僕はこれからひっかかれてくるから」
サキくんはそれだけ云って、ミューくんを追いかけていった。人波に紛れこんでしまったが、ふたりが合流したらしいのはちらりと見える。
「……えーっと」
なにか云おうとしたが、まったく話題を思い付かない。
ユラちゃんはむしパンの包み紙をぐしゃぐしゃにしてしまっているし、ほーじくんの手のなかではむしパンが包みごとぺしゃんとなってしまっていた。俺のむしパンは、どうやら収納してしまっているらしい。いつやったんだろう。ミューくんが怒りだしたくらいかな。無意識に、収納空間に放り込んでいた。
リッターくんは少しだけ俯いている。ニーバグ達がリッターくんのずぼんをひっぱる。
「ミューが来てくれて、ほんとによかったわ」
ユラちゃんがふっと息を吐き、苦笑いみたいなものをうかべる。「リッター、あんたって、わたし以上に独善的になる時があるわよ。特に、護衛士のことが絡むとね。ミューに忠告されて、わかった?」
「……わからない」
リッターくんは正直に、そう云い、三秒くらい口をまったく噤んだ。それから云う。
「だが、ミューの云うことは、少しは理解できたと思う。たしかに俺は、自分の誇りを恢復する為に、レティアニナを廟へ預けようとしていたのだと思う」
リッターくんは頷く。「彼がなにを望んでいるかは考えていなかったし、彼がどうして俺を庇ったのかも考えていなかった。ミューの云うことが真実なら、たしかに、俺が彼のことをくだくだしく云々するのは、彼の本意ではないのだろう」
「そうよ。ニニはあんたを助けたいから助けた。だからあんたは、そのことに感謝して、ニニの治療費を出すだけでいいの」
ユラちゃんはふふっと笑う。
「あんた、自分に置き換えて考えてみなさいよ。あんたがわたしを庇って気を失って、目が覚めたら何日か経ってて、責任をとるなんて云ってわたしがあんたと結婚してたら?」
「離婚する」
即答に、ユラちゃんはリッターくんの向こうずねを蹴っ飛ばすようなふりをしたが、笑いながらだった。「そうでしょうよ。ニニに余計な手間をとらせたくなかったら、廟への寄付だけ考えてなさい」




