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ユラちゃんがふーっと息を吐く。「それにしても、裾野であれだけ酔った人間を見るなんてね。意外だわ」
「一応、還元酒だったみたいだよ」
口をはさんだ。
立ち呑み屋さんに、酔い覚ましのお薬を溶く為のゴブレットをかりた時に、そんなようなことを聴いたのだ。還元酒なのにどうしてあんなに酔っぱらうのかねえ、とおねえさんは不思議そうだったけれど、お酒はお酒だし、裾野のひと達は禁酒があたりまえの状態で何十世代も生きてきている。お酒に弱くて当然だ。
ただ、この禁酒というのは、単に酔う・酔わないの問題じゃない。お酒を造ることがもうアウトなのだ。
火を通して食べればおなかがふくれる穀物やお芋、そもそもそのまま充分食べられるくだものなどを、おなかにたまらないように加工するというのを、開拓者はコスト対効果が悪すぎると感じたから。それは聖書的なものに明記されてる。もともとこの世界は物資が乏しかったからな。折角のくいものをお酒にするなと、そういう意味での禁忌だ。精神的なものや、例えば酔うから悪いということではない。
還元酒は、多分お酒以外からでもつくれるんだと思う。だから、還元酒というだけで勘弁してもらえる。実際は、りんご酒からつくられたものがほとんどみたいだけど。
とはいえ、還元酒ならば宗教的には問題はない。
だがユラちゃんはくいさがる。
「還元酒も、裾野であんなに沢山見るのはめずらしいわ」
「そうなの?」
「あのひと達は、ディファーズの人間のようだったから」ミューくんが宙を見る。「還元酒なら呑みたいってひとは、沢山居るよ」
「ふうん。ディファーズ系が多いんなら、それを狙って酒を提供してるっていうのは頷けるわね」
「でも、還元酒なのかな、あれ」
ほーじくんが不安そうに云った。「ぼく、あんな匂いのお酒、知らない」
「ああ、あれ、蒸留酒をジュースで割ったやつだったよ。ジュースの匂いじゃない?」
俺がそう云うと、ディファーズ組がきょとんとした。ユラちゃんがなにか云いかけたが、サキくんがそれを遮る。「マオさん、お酒にくわしいんですか」
「え、いや、そこまでじゃないけど。でもあれは、蒸留酒だと思う。ブランディ」
そういう香りがしたのだ。
ディファーズ組はきょとんとしているし、サキくんとユラちゃんは眉をひそめていた。「蒸留酒……ロア産かな……」
「マオ、あんまりそう云うこと云わないほうがいいわよ。特に、ほーじのお兄さん達には」
「……あ、うん」
頷いた。危ないあぶない、また余計なことを云って、もめるところだ。ユラちゃんの助言には感謝しなくちゃ。これ以上、ネクゼタリーさんやサーダくんに負担をかけたくない。




