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「俺は、多少なら呑んでしまっても問題はないと思うよ」
「このひとが呑んだ量は多少じゃない」
サキくんは頭を振る。「酒や手斧草をきっかけに、もっと危険なものに手を伸ばすようになる。それらは階段の一段目なんだよ。奈落へ続く階段の」
不思議なことに、お酒を禁じ還元酒を推奨しているディファーズ出身のミューくんが、酒のみの肩を持ち、そういう決まりのない飲酒が普通のロア出身のサキくんが、飲酒そのものをきわめて強い口調で非難している。
ミューくんって、お酒呑むひとに対してそこまでいやがるふうではなかったけど、ここまでなんていうかな、友好的だったんだ。ディファーズ出身だから、意外な気がする。サキくんも、ロア寮では毎晩のようにどんちゃん騒ぎしてるから、お酒はまったく平気なんだと思ってたのに。
俺は酔い覚ましのお薬をゴブレットでお水に溶かしながら、ふたりのやりとりに目をまるくしてしまっていた。ユラちゃんも面喰らったらしい。ほーじくんはおろおろと、ふたりを交互に見る。
「ミュー、サキ、そんなに云い争わないで……」
ゴブレットからお匙をとりだす。「あのー、ミューくん?」
「あ、すみませんマオさん。ありがとうございます」ミューくんはこちらを見て、にこっとした。それからほーじくんへ向く。「ほーじ、あっちのひと達にあげてくれないか?」
あくまでにこやかなミューくんに、ほーじくんは小さく数回頷いて、俺が持つゴブレット二脚を持って壁へと走っていった。ひとり目とふたり目が、まだいびきをかいているのだ。
サキくんは怒った様子で、ほーじくんを追った。怒っているのに、手伝ってくれるらしい。
ミューくんに膝枕してもらっている酔っぱらいが、ミューくんの手を嚙んだが、ミューくんはくすぐったそうにしただけだった。
「ごめんなさい、俺の所為でこんなに遅くなって」
「いいわよ。あんたが信じられないくらい度量がひろいっていうのがわかったわ」
ユラちゃんが呆れ声を出す。
俺達は五人揃って、通りをとぼとぼ歩いていた。あの後、ミューくんは酔ったひとを藪につれていって吐かせてあげたり、近くの酒場兼宿へつれていって寝かせてあげたりしていた。吐いたひとは我に返ったみたいで、やっぱりミューくんにぺこぺこし、おわびとお礼にと、銀貨を数枚ミューくんに渡していた。
ミューくんは手を洗って、さっき自分に燕息をかけていた。大丈夫なのか訊いたら、お酒のにおいで気分が悪くなったと教えてくれた。ミューくん自身はお酒には耐性があまりないみたいで、それなのにお酒をすごしたひと達に気を配れるのは凄いなと感心してしまう。
感想ありがとうございます。はげみになります。




