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「はい、寝ぼけないでください。こんなに呑んじゃだめですよ。燕息」
ミューくんは相手のせなかをぺたぺた撫でながら、燕息をかけてあげた。酔っぱらっているおにいさんは、それでもまだ酔いがしっかり覚めないらしい。ミューくんに体重をかけ、むにゃむにゃとなにか口走る。
ミューくんは後ろに倒れそうになりながら、忍び笑いをもらした。「はい、はい、わかりましたから。ほーじ、このひとをあっちへつれてってもらえる? ちょっと眠ったらもう大丈夫だと思うから」
「え。……うん」
ほーじくんは、ミューくんに指示されたとおり、まだむにゃむにゃ云っている男のひとの両脇に腕をいれ、ひきずっていった。
まちのぐるりに張り巡らされている壁へ、せなかをつけるようにして、そのひとを座らせる。ほーじくんはさーっと、走って戻ってきた。ちょっとこわかったみたいで、戻ってくるや俺に抱き付いてきた。可愛いので、頭をちょっと撫でる。
ミューくんは、ほーじくんが作業している間に、別の酔っぱらいを治療しはじめていた。
今度は、相手は顔を上げ、ミューくんを認識するや、彼の膝に向かって這いずりはじめた。そのまま、ミューくんの膝に顔を埋め、ミューくんのお尻に手を伸ばしてさわっている。
ユラちゃんがそのひとを蹴ろうとしたのだが、ミューくんが笑顔で停めた。「ユラ、いいよ」
「なにがいいのよ」
「こうなることはわかってたから」
「じゃあどうして治療なんてしてやるのよ! それも、無償で」
ユラちゃんがまっとうなような意見を口にすると、ミューくんは肩をすくめた。
「どうしてって云われたって。酒をすごすと、そのまま死んでしまうことだってあるんだ。放っておけないだろ。危ないかもって思っていたのに放っておいて、死んでしまったら、気分が悪いし」
「それは……」
「それにこれは、本当に急を要する治療だから、対価をもらわなくったって問題にならないよ」
ミューくんは慈しむように酔っぱらいの頭を撫で、ユラちゃんは口を噤む。ユラちゃんは自制心のあるひとなので、こういう時に無理にでもミューくんを停めるなんてことはできないししない。ミューくんの意思を尊重する。
ふたり目も、ある程度の治療が終わるとほーじくんがひきずっていって、壁に凭れさせた。そこまでやっていると、立ち呑み屋のおねえさんが出てきて、俺達においしい山羊ミルクをおごってくれる。「ごめんねえ、ただでやってもらって」
「これで充分、対価は戴きましたよ」
ミューくんは三人目を治療しながら、やわらかい調子で応じた。




