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リッターくんは床に両膝をついて、ニニくんの額を撫で、組んでいた手を解いて握ったり、腕をマッサージしたりしている。意識を失っているひとに、慣れているような仕種だ。
俺はリッターくんに求められるまま、お水を出したり、タオルを出したりした。「湯をつかわせてやらないとな」
「うん」
「きかえはさせているが」
「うん」
「廟では、それくらいの世話は、してくれるのだろう」
「うん……」
リッターくんがニニくんの手をもんでいるのを見て、座席にぐったりと身を預けながら、俺は訊く。「リッターくん、ニニくん、なんて云ってたの」
リッターくんはゆっくりと俺を向く。俺は、気疲れしているな、と思う。
「なんの話だ」
「ニニくんが、気を失う前」溜め息を吐く。「俺、天罰で、わからなかったから」
「ああ」
リッターくんは合点したみたいで、頷いた。俺から目を逸らし、ニニくんの腕を優しくもむ。
「リッターくん?」
「彼は、お前に、あの指環を預けていた」
指環。プラチナと、金の、ふたつの指環だ。たしかに、渡された。
「自分のかわりに弟に返してほしいと。そう云うような意味の、ことを、云っていた」
気分が悪かった。泣き喚きたかった。そんなことをしたってなんの解決にもならないのに。
リッターくんはしばらくニニくんをマッサージして、お水をちょっとだけ飲ませ、馬車を降りる。俺はニニくんの顔や頭をタオルで拭き、それに続いた。カルナさん達に男ものの下着や服を幾らか渡しておく。
廟に預けるとしても、ミューくんの云うとおり、二十四時間つきっきりでお世話してくれるところがいい。多分、この辺りにはまだ、そういう廟はない。レントまでつれていくのが順当だろう。
俺とリッターくんが戻ると、みんなは立って話し合っていた。俺達もそれにまざる。「リッター。あんた、ニニの面倒を見ると云ってたわよね」
「ああ」
「ハイオスタージャ家は、荒れ地おくりのことがあって、領地を減らされてる」
ミューくんが気の毒そうに云う。「ハイオスタージャ卿を長く廟へ預けるような余裕はないだろう」
「俺がなんとかする」
リッターくんが項垂れた。ほーじくんが、リッターくんの腕を、優しく叩く。
「レントでなら、手厚い看護をうけられるよ。心配要らないぜ、リッター」ミューくんはやわらかく云って、頷いた。「まちへついたら、ハイオスタージャ卿を預かってくれそうな廟へ連絡するよ。リッターも、家に連絡したほうがいい。レントまでの間は、俺がきちんと世話するから」
リッターくんは頷いた。ほーじくんが、あにさま達に話してくる、と、その場をはなれる。




