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カルナさんとミエラさんが、不安そうにリッターくんを見ている。彼女達は、ニニくんの傍にずっとついているのだ。ニニくんはユラちゃん達の馬車の座席に寝かされている。
ふたりは、ミューくんとほーじくんにも対応したんだろう。表情はくらい。ミューくんから、ニニくんの病状……というのかな、状態を聴いて、廟に預けるしかないと云われ、困惑している感じだ。いや、困惑じゃなくて、哀しんでいるのかな。
自分の感情がもやもやしていて、他人に気を配れない。
「ロヴィオダーリ卿」
「レティアニナの顔を見ても?」
リッターくんは表情をなくしていた。冷静に、淡々と云う。カルナさん達は顔を見合わせて、しばらくなやむ様子を見せたあと、頷いた。
ニニくんは仰向けで、胸の上で手を組み、微笑むような口許で寝息をたてていた。体にはうすでのブランケットがかけられている。
馬車にのった俺とリッターくんに、馬車の外からカルナさんが云う。「さっき、フォージ卿とファバーシウス卿がいらして、体の向きをかえてくださったばかりですの」
「そうか」
「レティアニナ、よい夢を見ているみたいで、にこにこしていて」
カルナさんは言葉を切り、黙って扉を閉めてしまった。
俺はニニくんの向かいの座席へ腰掛ける。リッターくんは立ったまま、ニニくんを見ている。「どれくらいの確率なのだろうか」
「え?」
「レティアニナが、目を覚ますのは」
俺は口を噤む。
リッターくんは項垂れる。「彼を見ているのはつらい。こうやって徐々に朽ちていくだけならば、いっそ、殺してやったほうがいいのかとも思う」
「リッターくん!」
息をのむ。俺はその後の言葉が続かない。ただ、リッターくんの言葉に嫌悪感がある。その嫌悪感の理由はわかっている。主体が自分にあるところだ。タスも、リッターくんも、俺には同じに見える。自分がつらいから、自分が見ていたくないから、自分が……。
頭が痛い。俺だってきっと、そういう気持ちになることはあるんだ。だからリッターくんやタスを責めちゃいけない。彼らの感情は、間違っていない。ただただ俺がそれをきらっているというだけだ。
この問題に正しいも間違いもない。
「しかしそれは、俺のわがままだ」
リッターくんが肩越しに俺を見て、低めた声で云う。
彼の目は潤んでいる。
「レティアニナがそれを望んでいるかわからない。俺に彼を好きにする権利はない。だろう? マオ」
リッターくんは強すぎるのだ。
俺は否定も肯定もしなかった。その二択を迫られたことがない俺が、外野からとやかくいう資格はない。




