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「体はもう、大丈夫だと思う」
ミューくんは静かに云う。「でも、心が……凄く消耗してる。俺じゃ、どうにもできない」
「ちょっと……」
さすがのユラちゃんも、言葉が出ないようだ。目を瞠って、口をぱくぱくさせている。ミューくんは息を吐く。
サキくんが心配そうに云う。
「どうにかできないの? 例えばだけれど、アルティエラ先生みたいなかたがつくった薬ならきくんじゃあ」
ミューくんはゆっくりと頭を振った。
「害はないだろうけど、心の問題だから」
ユラちゃんは震えるみたいに息を吐く。「それじゃ、それじゃあどうするのよ。目を覚まさなかったら、食事、できないじゃない。食事ができなかったら」
「どこか、人手の多い、しっかりした廟に預けるのが一番だと思う。そういうところなら、意識が戻らなくても滋養のあるスープなんかを飲ませてくれるし。寝たきりの不調も少なくなる」
ミューくんは低い声で応じた。がっかりした様子ではあるけれど、動揺やなにかは感じられない。ミューくんはこういう例を、多分幾つも知っているんだ。
次のミューくんの言葉で、それが証明された。
「ああいうふうに、治療がうまくいっても目を覚まさないひとは、たまに居るんだ。俺も、何度か見たことがある。人間は、体の状態が心に影響するし、反対に心の状態が体に影響する。どちらかが著しく状態を悪くしたら、もう片方はそれにひっぱられる……ハーヴィさんのお姉さんのことを覚えてる? ユラ」
ユラちゃんが頷く。ハーヴィくんのお姉さん、フィーデレンシルさんは、病気で廟に入院している。ミューくんでも、一度では治せなかった。
「あのひとはハイオスタージャ卿の反対だよ。体の状態が本当に悪かった。だから心にまでそれが波及した」
「ねえ、ミュー……」
「無理に起こしてもろくなことはないから、こればっかりは、時間に頼るしかない。ゆっくり休ませれば、きっとよくなるから……力になれなくて、ごめん」
リッターくんがゴブレットを置いて、ユラちゃん達の馬車へと走っていった。サキくんが息をのむ。
俺はなにも考えずに、リッターくんを追った。
ユラちゃん達の馬車に手をついて、リッターくんは項垂れていた。彼の息は荒い。これだけの距離で息を切らす子じゃない。ニニくんのことが、リッターくんにはとても重いものになっている。
「リッターくん」
「すまない。俺が、まともに戦えなかったばかりに、レティアニナが」
リッターくんの声は震え、掠れていた。俺は頭を振るばかりだ。なんと云ったらいいのかわからない。




