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ミューくんは、お手洗いへ行った。ふらふらしていたので、ほーじくんが一緒だ。肩をかしてあげていた。
サキくんはぼーっと、馬車の修理を見ている。俺はサキくんの横顔を見ている。相変わらず、美少年にも程がある。
ユラちゃんとリッターくんは、武器の露店を覗いていた。いいものがあるかもしれないから、買ったらマオが預かって、とユラちゃんには云われている。
サーダくんとダストくんがふたりに近寄っていって、談笑がはじまった。ユラちゃんとサーダくんの間に、ひややかな空気はまだ漂っているみたいだが、俺が天罰をくらっていた頃程じゃない。
リッターくんは無表情だけど、安心しているらしい。だって、ミューくんが居るのだ。ニニくんの具合がこれ以上悪くなることはありえない。
馬車が一台、街道から這入ってきて、のっていたひと達が荷物を持っておりはじめた。御者さんがひょいと御者台をおりて、かし馬車の商会のひとへ近付いていく。商会のひとが馬車を別の場所へ移動させ、あたらしい馬車が運ばれてきて、彼らは馬車をのりかえてすぐに出ていった。
今までひとを運んでいた馬車は、ひいていたラシェジル達は解き放たれて食事をしたり、ブラッシングをしてもらったりしていて、馬車本体は整備にはいっている。数人でてきぱきと、なにかを確認したり、車輪をあたらしいものにかえたりしているのだ。そういうふうに馬車を乗り継ぐのは、普通みたい。
サキくん達みたいに、ラシェジルにのってくるひと達も居た。別の馬にのりかえてすぐに出ていくひと達も居れば、騎商と覚しいひとから餌を買って、一緒に休憩しているひとも居る。
こう云うところで食事を提供すれば儲かりそうだが、食べもの屋さんはなかった。食糧を運ぶのが手間だからだろう。武器や服なら、食糧と違って腐れない。
「マオさん?」
「うん」
なんとなく、慌ただしいひとの動きを見ていた俺は、サキくんに目を戻した。
サキくんは微笑んでいる。「マオさんが、なんであっても、僕はそんなのどうでもいいんですよ」
「え?」
「マオさんはマオさんだから」
俺は口を半分開いた格好でかたまっている。
サキくんは低く、静かに、続ける。
「だから、わがままですけど、僕にくらいは云ってほしかったな。僕ら、友達でしょう? そう信じていたんですけれど」
サキくんの手が俺の手を掴んだ。俺はうまく声が出なくて、サキくんの手を握り返す。
苦労して、言葉を出した。
「友達だよ。俺と、サキくんは、友達」
「よかった」
サキくんはにこっとする。頬に軽く口付けられた。俺も口付けを返す。
それだけのことが、多分俺にとっては奇跡みたいなものなのだ。




