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一瞬あって、ユラちゃんが呆れたみたいに、サキくんとミューくんを見た。ミューくんはまだ眠っている。
「それにしても、こんなにはやくに来るなんてね。危険だったでしょう、馬車にものらないで……魔物に襲われたのじゃない?」
「僕は馬車を操れるから、ミューに馬車をすすめたんだけれど」サキくんは苦笑いになった。「彼は、それよりもラシェジルをのりついだほうがずっとはやいし、魔物が出ても逃げてしまえばいいって云って、きかないんだ。それに、あのミューが、費用ならジーナが持ってくれるから心配ない、ときたからね」
サキくんの言葉に、俺達は黙ってしまった。
ジーナちゃんはいつだって、ミューくんに服を買ってあげようとしたり、杖を用意したり、ミューくんのお家の経済的苦境を知っていてそういう行動をとっていた。でも、ミューくんはそれを成る丈断っていた。
本当はありがたいと思っていたとしても、ジーナちゃんがミューくんの為にお金をつかうほど、ふたりの婚約が既成事実になっていく。だから、ジーナちゃんを思って、自分が苦しくても断っていたのだ。
それなのに、旅費をジーナちゃんに出してもらうから心配要らないとサキくんに云ったのだから、ミューくんは是が非でも俺に会いに来たかったということだろう。
それが、優しい気持ちからだというのは、わかった。彼は俺が天罰をくらったことを心配していたし、それがすでに解けていると知って、気を失ってしまった。今まで張り詰めていたものが切れてしまったんだと思う。
俺が、封印されたことが、みんなにはやっぱり負担だったんだ。俺が嘘を吐いていたこと、隠しごとをしていたことが。
サキくんが微笑んだ。少し、哀しげだ。
「でもね、ミューは手が震えてしまっていて、乗馬ができなかったから、同じ馬にのることになったんです。彼、食事だってまともにとらなくて、ずっとぴりぴりしていて……だからマオさん、ミューが起きたら、おいしいものを食べさせてあげてくださいね」
俺は頷いた。声が出なくて、それだけしかできなかった。
ミューくんが突然、立ち上がった。「ミュー?」
サキくんがやわらかく云いながら、やはり立ち上がる。
ミューくんは目を瞠って、俺を見たり、ほーじくんを見たり、サキくんを見たりした。
「ま」ミューくんはしゃっくりする。「まおさん」
「うん。久し振り、ミューくん」
そんなばかみたいなことを云ってしまった。でも、ミューくんは泣き笑いの顔になって、座り込み、俺の手をとった。それで、泣き出してしまった。




